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むすっとしながらルルちゃんを構っている夏希の横顔を眺めていると、伸びをした夏希がそのまま後ろにぱたんと倒れてきて、横になっている俺の腹に寄りかかってきた。ちょっと苦しいけど甘えてくれてるみたいで嬉しい。触り心地の良い柔らかい髪に指を通すと、軽く睨まれたけど振り解かれたりはしなかった。 「彼方は、朝飯って食う派?」 「え、もしかして作ってくれるの?」 「別に。で、食う派なの?答えろ」 「うん、食べる派だよ」 何の調査なんだろう、と微笑ましく思って頭を撫でると、するりと躱すようにして夏希はルルちゃんを抱っこしてベッドから下りた。 「どこ行くの?」 「飯作ってくる。まだ眠かったら寝てていい。あと、制服は洗濯して乾燥もかけてあるから、洗濯機から勝手に取り出してくれ」 「俺のためにそこまで……」 「違ぇし!俺も朝は食べる派だから……そのついでだからな!洗濯も俺のを洗うついで!」 それだけ言い残すと荒くドアを開けて出ていってしまった。出ていく際にちらっと振り返った顔は赤くなっていて、的確に俺のツボを突いていく。手作りの朝食に洗濯までしてくれるなんて奥さんみたい。あっ、夏希が奥さんってことは……俺が旦那?うわぁ、なんの御褒美だろう。 ニヤニヤしてしまう口元を手で隠して、後を追うように俺も一階に下りた。先に洗面所に寄って、顔を洗って寝癖を直して制服を回収する。自分の制服なのに夏希の匂いがするから不思議な気分だった。 俺が今着ているのは夏希のジャージで、わざわざ引っ張り出してくれたのを夜に部屋で待っている時に着替えた。身長が伸びるのを見越して買ったらしいそれらは、夏希にとっては大きめのサイズだったけど俺にはぴったりだった。 前にクラスの女子たちが盛り上がっていた『彼ジャージ』姿の俺に、夏希は特に反応することもなく机に向かっていったからちょっと残念だった。ああ、まだ付き合ってないから『彼ジャージ』じゃないか。 そんなことを考えながら畳んだ制服を片手にダイニングに行くと、エプロン姿の夏希がせっせと朝食を作っていた。好きな子ができて早々にこんな姿を見られるなんて誰が予想できるだろうか。テーブルには既にサラダと焼き鮭が配膳されていた。 「突っ立ってないで着替えるか席につくかしろよな」 「ふふふ、なんだか新婚さんみたいだね。何か手伝うことある?」 「朝から何言ってんだよ……。じゃあ、ご飯と味噌汁よそって持ってって」 「はぁい」 キッチンに入って言われたことをやる。二人分のご飯と味噌汁を配膳してまたキッチンに戻り、後ろから夏希の手元を覗き込むと玉子焼きを作っていた。卵液を何回かに分けて入れながら器用な手付きでくるくると巻いていく。綺麗なだし巻き玉子ができた。 「器用だね」 「そう?これくらい普通だろ。昨日見てて思ったけど、彼方の方が要領いいし器用だよ」 「ふふ、また一緒にご飯作ろうね」 「それは、まあ……そうだな。楽しかったし」 褒められたのが恥ずかしかったのかツンツンしてたのに、急に微笑んできた。そんな笑顔を見せられたら心臓に悪すぎる。しかも『楽しかった』って、なに、そんなこと思ってくれてたの……。火を使ってるから抱きしめたくなる気持ちをぐっと堪えて、代わりに足元にいたルルちゃんを撫でくりまわしておいた。 なんというか、夏希って思ってたより家庭的な子だ。口は悪いしツンツンしてるけど、真面目だし料理も洗濯もできる。あと、たぶんハル情報によれば床上手。俺の中の結婚したい人の条件トップテンに入る。ただ従順なだけじゃつまらないし、かといって過度な反抗も面白くない。そこら辺は夏希はちょうど良いだろう。 ……本当に、俺のものになってくれればいいのに。

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