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目覚ましをかけないでいつもより二時間遅く起きた俺は、朝食のいちごジャムトーストをかじりながら悩んでいた。 ……今日、あいつ暇かな。うん、暇だろうな。空けておけって言ってあるし、あいつのことだからいつ呼び出されても良いように空けてあるだろう。でも、夏休み初日から呼び出すなんて楽しみにしてたみたいで、なんか嫌だな。ここは二三日……いや、一週間くらいおいて……。 「あーもう!なんで俺がそんなこと考えなきゃいけないの?悩んでるなんてバカみたい!」 「うわっ、なに大声出してんだ。びっくりした」 いきなり声をかけられてびくっと振り向くと、廊下に繋がるドアのところに怪訝な顔をした父さんがいた。外科医をやってる父さんは、母さんと同じくあまり家にいないけど暇を見つけては帰ってきてくれる。 「と、父さん……おかえり……」 「ただいま。で、何をそんなに悩んでるわけ?ついに彼女でもできたかー?」 ネクタイを外しながらぼすっとソファーに腰かけた父さんは、ニヤニヤしてるのを隠さずに聞いてきた。目の下には隈ができていているからかなり寝不足なんだろう。父さんが特別忙しいのか、それとも外科医ってこういうものなのか俺には分からないけど、溌剌としている時の父さんを知っているからあまりのやつれ具合にさすがに心配になる。 「俺のことはいいから、父さん疲れてるでしょ?寝たら?」 「ベッドに一人とか寂しいだろーが。ママもいないし今の俺の癒しはお前だ、ハル。こっち来い。そして話を聞かせろ」 「やだよ。それに、いい年してママって呼んでんじゃねぇよ……」 「あ?可愛いげのないクソガキは黙ってろ。あの可愛さには『ママ』って呼び方がぴったりだろうが。もしくは『ハニー』だ。ふっ、ガキにはまだ分かんねぇか?懐かしいなぁ、出会った頃は――」 始まった……。二人の馴れ初めなんて小さい頃から何十回も何百回も聞かされた。もう俺に話すことなんて一つもないんじゃないか。 両親は研究医と外科医で生活リズムが合わないし、会える時間も毎日確保できてるわけじゃない。すれ違いのひとつやふたつくらい起こしそうなものなのに、どういうわけか二人はラブラブだ。 ちなみに父さんは母さんのことを溺愛するあまり、子どもたちを差し置いて『ママ』って呼んでるけど、母さんは普通に名前で呼んでる。温度差を感じなくもないけど、母さんも満更でもなさそうだし家庭崩壊するよりは全然マシだ。今みたいに、たまに帰ってきた父さんから何時間も惚気話をされることは、それよりかは全然マシ……なはず……。 まあ、マシだということと鬱陶しいということは全く別だけど。 「父さん、俺ちょっと出かける準備しないとだから、部屋戻るね」 「おー。……あれ、そういやカナは?」 「カナなら友達の家にお泊まりだって」 「女か!?なかなかやるなぁ。ついにカナの中の男が目覚めたか。勉強ばっかりだったから心配してたんだぞー。お前も女遊びはほどほどにしとけよ?避妊はちゃんとするように」 「父さんまで母さんと同じようなこと言わないでよ……」 俺の貞操の悪さは若い頃遊びまくってた父さん譲りだろうと、その父さんが言っていた。実際、そういうのって似るんだろうか。もし本当なら、将来の自分を見ているようでちょっと嫌だな……。医者には絶対なりたくないけど。 「とにかく、俺たちと違ってカナは女遊びするようなやつじゃないでしょ」 呆れるようにそう言うと父さんは「そうだな、真面目だし」と笑った。俺が父さん似なら真面目なカナは母さん似と言える。カナまで俺みたいになっちゃったら、さすがに母さんが可哀想だ。

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