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昨日シたとき、俺はそこに付けてない。鎖骨なんて夏希に気づかれやすいところには付けない。俺が付けたのは背中と首筋だけだ。よく見ると、首筋にも俺のじゃないキスマークがひとつ、ついていた。 「……それ、どうしたの?」 「は?どれ?」 「鎖骨と首筋のキスマーク」 「っ、キスマーク?……あ、そうだお前!人が寝てる間に何勝手に付けてんだよ!」 「確かに付けたけど、でもその二つは俺が付けたのじゃない。いつ、誰に、付けられたの?」 「……知らない」 言葉では否定してるけど逸らされた目が動揺を表していた。目は口ほどにものを言うってこういうことか、なんて考えるあたり怒りが沸き上がってくる中でどこか冷静だった。 夏希の腕を掴んで立ち上がる。いきなり動いた俺にびくっとした夏希は、怒っているのを察したのかベンチから動こうとしない。 「立って」 「え、なに、どこ行く気?」 「俺の家」 「……カフェは?」 「気が変わった。いいから立って」 「……やだ」 「…………立って大人しく着いてくるか、それともここでヤられるか。どっちがいい?」 顔を寄せて耳元で囁くと夏希が下唇を噛んで俯いた。あれだけ悩んでいたのに当初の目的を後回しにしている自分に笑えてきた。今はカナと知り合ったかなんてどうでもいい。それよりも早くこのキスマークを付けた犯人が知りたい。俺のに手を出した 「いい子だから、俺に着いてくるよね?」 「お前、ずるいぞ……」 脅迫めいた甘い言葉に夏希は頬を赤くして睨んできた。ほんと、分かりやすいやつ。 腕を掴んだままでいるとやっと諦めたのか立ち上がった。 「ちゃんと着いていくから、腕離して。痛い」 「ああ、ごめん。……赤くなっちゃったね」 無意識に力強く掴んでいたみたいで、夏希の白い腕には俺の手の跡が赤く残っていた。夏希がその跡をさするのを見て頭が冷えていく。ちょっとやりすぎたか。 歩き始めると夏希は俺の隣には並ばずに、黙って少し後ろを着いて来た。時折振り返ってちゃんと着いて来てるか確認する。目的地に近づくにつれてだんだん表情が曇っていったものの、でも昨日みたく騒いだりはしなかった。 家の前まで来ても反応は変わらない。カナがいるかもしれないってあれだけ来るのを嫌がっていたのに、今日はどうしたんだろうか。カナと面識があるなら鉢合わせするかもしれないって嫌がるだろうから、もしかして本当にカナのことを何も知らないのか。……探りを入れるとしたら、今かな。 「一応言っておくけど、家に弟がいるかもよ?」 「…………ここで嫌がっても、お前は場所を変えてくれないだろ」 うんまあ、そうだけど。でもその答えじゃ面識があるのかまだはっきりしない。『カナ』のことじゃなくて『弟』について聞けばいけるんじゃないか? 「…………なんでそこまで弟を嫌がるの?」 「……お前の弟が嫌なんじゃなくて、他人に聞かれるかもしれないのが嫌なんだよ」 「俺が家に人を連れ込むなんてよくあることだから弟も慣れてる」 なぜか夏希は少し傷ついた顔をした。今のはどっちに反応したんだ? 俺が人を連れ込んでるって事になのか、それとも『弟』がそれに慣れてるって事になのか。 「……なんでいきなり、そんなに弟の話すんの?」 「だって家に来るのを拒否する理由が弟だったから。そんなに恥ずかしがってて、いつの間にか面識があったのかと」 「…………お前の弟とか知らねぇよ。あんなの誰に聞かれても恥ずかしいだろ……」 夏希の口から聞きたかった言葉が発せられた。夏希は、カナと面識がない。それだけで充分だ。 俺も散々、カナと鉢合わせしたらどうしようかなんて考えてたけど、よくよく考えたらもう家に連れ込んでる時点でヤってるってバレてるし、既にカナは夏希を見てるんだから家に連れ込むのに何を今更気にすることがあるんだろう。 それに夏希が俺のお気に入りだってことも気づいてる。わざわざ俺がいる前でカナの方からちょっかいを出してくることはまずない。 カナに会う前に部屋に行けばいいことだし、もし会ったとしても夏希と会話をさせなければいいだけ。どうせ二人が会うのなんて俺の家くらいだ。家の中で夏希と常にいればカナだって夏希に近づかないだろう。

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