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「お前、今日変だぞ。キスマーク気にするとか遊佐らしくない。……何かあった?」 俺らしくない。そう言われて胸が痛くなる。 『俺らしくないようにさせてるのは夏希、お前だろ?』なんて、喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。 こんな風に思うのも相手が夏希だからだ。夏希だから他の誰かに触らせたくない。夏希だから俺だけのでいてほしい。俺に見せているような姿を、俺以外の人間に見せたくない。 セフレ相手にここまで入れ込むなんて初めてで、彼女にだってここまで思ったことはない。 おもちゃも食べ物も、何でも昔から気に入ったものは独り占めしたくて、双子の片割れであるカナと分け合わなきゃいけない時は、きっちり二等分じゃないと気が済まなかった。二等分できないものは独り占めするか潔く諦めるかの二択だったし、共有するなら全て平等にしないと嫌だった。 分け合う相手がずっと一緒に育ってきた人だったとしてもそうなんだから、カナ以外の誰かと何かを共有するのなんて到底無理で……。他人と共有するくらいなら自分から手放した方が楽だし、『仕方のないこと』で終わらせてきた。 セフレや彼女が入れ替わるサイクルが他人より早いのは、明らかにそれが原因だった。他の人間に少しでも靡いたらそれまでで、自分が所有してる時に他人の手垢が一度でも付いたものにはどうしても興味が持てなかった。 だけど、夏希は違う。 誰かに対して、共有すらしたくない、手放したくないって思ったのは初めてで、どうしてそんな風に思うのか自分でも不思議だった。……こんなときカナだったら、すぐに理由が分かって次にどうすればいいのかも分かるんだろうか。 ああ、こうやってカナと比べたりしちゃうのが俺らしくないのか……。 「…………何にもないよ。自分のセフレに手を出されたのかと思っただけ。誰かとシェアするとかありえないし、ビョーキ貰ってこられても困るしね」 「……はは、お前変なところで欲出すよなぁ。ほんとワガママ」 夏希はあくまでセフレなんだって自分に言い聞かせるように思ってもないことを口にする。 いつもなら『俺はお前のじゃない』って怒るのに、何かを察したのか今日に限って「それでこそ遊佐だ」と笑っていた。セフレが手を出されるとか病気の心配とか全然俺らしくないのに。 本当にどうしようもなく、夏希は俺の心をかき乱してくる。 「……キスマーク、本当に誰かと寝たとかじゃないの?」 「違うから。キスマークついてるぞってからかわれて、その流れで友達にいたずらされただけ。誰かと寝たりはしてない。今は遊佐だけだから」 『遊佐だけ』という言葉に泣きたくなる。その場しのぎの言葉だったとしても満足だった。 いたずらでキスマークをつける友達というのに引っ掛からなくもないけど、今は夏希の言う通りそいつが犯人だと思うことにしておこう。 「……それならいい。俺とヤってるのに、他のやつとも遊んでるのかと思った」 「お前の相手しててそんな体力余るわけないだろ。今まで相手してきた女の子たちが可哀想になるレベルだぞ」 「セックスに関しては特に言われたことなかったなぁ。……そんなにひどい?」 「…………もしかしてお前、俺が男だからって多少やり過ぎても大丈夫だと思ってる?」 「え、いや、今はそんなことは……」 「『今は』って。まったくお前は……」 最初の頃は実際にそう思ってたから否定できない。言葉を濁すと夏希は呆れた顔をしていた。 けれど何かを思い付いたらしくにやりと笑って両腕を俺の首の後ろに回してきた。顔を引き寄せられたかと思ったら脚を俺の股間に当ててくる。何がしたいのか分かって少し汗ばんだ脇腹を撫でるとくすぐったかったのか吐息を漏らして挑戦的な目を向けてきた。 ……あーあ、今日はヤらないって決めてたんだけどな。 「せっかく家まで来たんだし、どうせヤるんだろ?」 「こんなことされたら応えるしかないでしょ」 「やさしくしろよ?お前ほんとに激しいんだから。あと強く噛むの禁止」 「分かった分かった。最高に優しくする」 首筋に付けられた俺のじゃないキスマーク。見るだけでイライラするそれを、上から吸い付いて馴染むように舐めて優しく噛む。俺のじゃない痕なんて全部、上書きしてしまえばいい。 鎖骨の方も同じように上書きして、どうせ背中のキスマークを知られているのなら前に付けてもいいだろうとずり下がる。胸の下、臍の上、脇腹と次々にキスマークを散らしていく俺の髪を夏希は指で梳いていく。 「ん、あははっ、遊佐、くすぐったい!……見えるとこには付けんなよ?」 「服で隠れるとこだから大丈夫。あ、でも鎖骨のところはちょっと厳しいかな」 「これって、どれくらいで薄くなるかなぁ……」 さぁね、と適当に返してキスマークを付け続ける。もう俺以外の誰にも付けさせないでね、って言ったら夏希は「分かったよ」って笑っていた。 夏希は、俺のだ。誰にもあげない。

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