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何気なく過去のトークを遡って見てみると、会話はいつも俺の呼び出しから始まってた。正確には、俺は呼び出しのメッセージしか送ってなくて、あとはあいつからの『今から家出る』とか『もうすぐ着く』とか位置情報的なメッセージだった。雑談とかお互いの内面的な話なんか一切なかった。本当に体だけの繋がりなんだな。なんかちょっと寂しい気が……。 ……寂しい? そんなのセフレに対して思ったことなかったのに。俺は何を考えているんだ……。 俺があいつのことを気に入ってるのは確かだ。夏休み初日からセックスに誘うのってどうなんだ、と真剣に悩むくらいには気に入ってる。回数を重ねる毎にハマっていってるのはもう認めざるを得ない。他のセフレは誰に取られても気にも留めないけど、どうにも夏希に対してはそうは思えない。想像しただけで嫌な気分になるくらいだ。 こんなにハマるんだったら、もっと丁寧な対応しておけば良かったと後悔してさえいる。普通の会話をしようと思っても何を今更って感じがするし、何を話せばいいのか分からない。 夏希のことを考えると次から次へと悩み事が出てきて、自分を乱されてるみたいで嫌だった。 「はぁ……まじで悩むとか意味分かんない」 あまりにも自分らしくなさすぎるのが耐えきれなくて、もう開き直った。 まず、初日からヤるヤらないで悩むなんて、ほんと馬鹿馬鹿しい。実際、楽しみにしていたんだし、いつも自分がしたいときに身勝手に呼び出していたんだ。夏休みだからって何も変わりはしないだろう。むしろそこで悩む方が、夏希を意識してるみたいでおかしいじゃないか。 さっさと呼び出して、さっさとヤってすっきりしてしまおう。それで万事解決だ。 場所はどこがいいかとか考えるのも、あいつを意識してるみたいで嫌だったから「いつもの公園に来て」とだけ送った。ヤる時は大抵、近所にある小さな公園で待ち合わせて、その時の気分でどこに行くか決めていた。 『わかった。今から家出る』 五分ほど経ってからそう返信が来た。あいつが自宅から公園までどうやって来るのか知らないけど三十分くらいで着くらしい。そういえばゴムの余りってあったっけ。行く途中にコンビニ寄らないとかな。 あいつがもうすぐ着くだろうって時間に家を出た。リビングに父さんの姿がなかったから仕事に戻ったんだろう。 俺の家と公園のちょうど中間にあるコンビニに立ち寄りゴムを買って出ると、十分前にあいつから『ついた』とメッセージが来ていた。自然と速くなった足に気づいて、思わずため息をついた。 公園に着くとすぐに木陰のベンチに座っている夏希を見つけた。小さくあくびをして、退屈そうに空を眺めている。いつも学校帰りにすることが多いから私服姿はちょっとレアだ。 「お待たせ~」 「遅い。……それ何?」 「んー?ゴムだよ?ストック切れてたから」 「あっそ」 相変わらず反応が薄いなぁ。普段の夏希はけっこうドライで口が悪い。俺のことなんかまったく興味がないって感じだ。学校の女子もセフレも俺に近づいてくる人はみんな、好かれようとして媚びるような態度だし、夏希みたいなドライな態度を取ってくる人は滅多にいないからなかなか新鮮だった。ツンツンしてるのも乱れているのも見てて楽しい。 「つーか、初日から呼び出すとか……。しかも昼間……」 「どうせ暇でしょー?こういう時しかいっぱいできないしね」 「馬鹿じゃねぇの。課題出てるだろうが」 呆れたような目で見られたから、にこっと笑って見つめ返しておいた。一秒も経たないうちに逸らされたけど。 夏希は俺のこの顔と声が好きらしい。夏希がそう言ったわけではないけど、俺に対する態度や反応からそうなんだろうと分かるし、ヤってるとき思考が溶けてくると俺の顔をじっと見つめてきたり、耳元で囁くように喋ってあげるといい反応をしてくれる。 性格の方はあんまり好かれてるって感じじゃないけど、呼べば来てくれるんだから嫌われてるわけでもないんだろうな。……まあ、そうであってほしいっていう俺の願望であって、本人がどう思ってるかは知らないけど。さすがに自分のことを嫌いな人間とヤるのは気が進まない。 「……今日は、どこ行くんだよ?」 「暑いし遠くに行くのめんどくさいから、俺の家でいい?」 「ああ、いいけ……いや、まって。家は、ちょっと……」 「えー、なんで?俺の部屋、涼しいよ?」 「そういう問題じゃなくて……」 いつもなら『どこでもいい』と言って俺に任せてくるのに今日はダメらしい。家なら落ちた後も寝かせてあげられるのに。理由を聞いても「とにかくダメ」の一点張りで、そう言われると逆に家でしたくなる。どうせ夏希に拒否権なんてないし、もう俺の家でいいよね。

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