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公園から出ても夏希が嫌がって俺の家の方向に歩こうとしないから、夏希には内緒でわざわざ迂回して別の道から行くことにした。家がある方向とは別の方向に歩き出した俺を見て、夏希がほっと胸を撫で下ろしたのを見逃さなかった。俺の家に何があるというのか。夏休みだし、今日はカナがいるけど。……そうだ、カナがいるんだった。 そういえば先月、ちょうど家でヤった日の夜に、カナが『ベッドで寝てたあの子、男だよね?』って聞いてきた。たぶん寝落ちした夏希を部屋に一人残して俺がシャワーを浴びている間に、勝手に部屋の中を見たんだろう。見たというか、カナのことだから終わった頃を見計らって、『女を連れ込むな』って言いに来たんだろう。他のセフレの時は終わったらすぐ帰すからカナと鉢合わせることはないけど、あの時は夏希がいた。以前から夏希の話をすると興味を示していたから、その時に何かあったんだろうか。 このまま家に夏希を連れていって、もしカナと鉢合わせしたらどうする?俺のお気に入りってことは絶対にカナも気に入るだろうし、俺と違ってカナは真面目で一途だから夏希の方もカナを気に入るかもしれない。気に入るだけならまだしも、夏希のようなタイプはカナの好みのタイプだ。俺みたいにカナは遊びで手を出すような奴じゃないから、好きになったら本気で落としにかかるだろう。カナにだってこのお気に入りを取られたくない。やっぱり夏希を家に連れていくのはやめた方がいいかな。 ……いや、そもそもカナって男もいけるのか?そういうのをはっきり聞いたことはないけど、今までの恋人は全員女だった。でも、俺が男も平気なら……カナもいけなくはないんだと思う。実際に何度か男子生徒から告白されてるらしいし、引くどころか相手が女子の時よりも丁寧に断ったと聞いている。 「――さ、遊佐!おい!遊佐ってば!」 「あ、なに……」 「『なに』じゃねぇよ。お前どこ行くつもり?そっちって家がある方向だろ。俺、家は嫌だって言ってんだけど」 「あ、ああ……ごめん、考え事してた。っていうか、どうしてそんなに嫌なの?なんで?教えてくれなきゃ納得いかない」 いつの間にかいつもの通りに出ていてあっさり気付かれた。でも、そんなに嫌ならその理由を教えてくれたっていいだろう。顔を近づけて強めに質問すると、夏希は戸惑ったような表情で少し頬を赤くした。その顔はなに、俺がそうさせてるの?それとも行きたくない理由がそうさせてるの? 「……な、夏休みだし、お前の弟がいるんじゃないかと思ったんだよ」 俺を睨みながらぼそぼそと答える夏希にイラッときた。カナのことを考えたから赤くなったわけ?やっぱりこいつ、カナと何かあったんじゃないか?俺の口からカナの――弟の話をしたのは昨日が初めてで、あれ……でも、こいつは俺に弟がいたことを知らなかったんだよな。あの様子じゃ双子だってことも知らないだろう。だとしたらあの日二人の間には何もなくて、一方的にカナが夏希を見たってだけ? 会話を交わしてないならお互いがどんなやつか分からないだろうし、それなら良いんだけど。 「なんだ、そんなこと?家でヤったら弟にバレるかも、って思っちゃった?」 「普通思うだろ。今まではいなかったから良かったけど、夏休みだし……」 うちは建てる時に両親が家でも作業しやすいように防音対策ばっちりにしたから、カナがいても夏希がその気配に気づかなかっただけなんだけどね。大体ヤってる途中で帰ってきたり初めから部屋にいたりする。 何となくお互いが何してるか分かるから、部屋でヤってる時はカナは絶対に近寄ってこない。ただしその日の夜にものすごく文句を言われるけど。 「俺の部屋のドアは鍵ついてるから、かけておけば最中に入ってくることはないよ。壁も厚いから声が漏れることもない。まあ、よっぽど大きな声を出さない限りは、だけどね」 「出すわけねぇだろ。……で、結局どうすんの?」 「今日はとりあえず……あ、ちょっとまって」 どこかで見てたんじゃないかってくらい良いタイミングで、カナから『しばらく図書館にいるから洗濯物よろしく』ってメッセージがきた。どうやら俺が出た後にカナも出かけたらしい。図書館にいるってことは今カナは家にいない?カナがいないなら家でしたっていいだろう。 「その弟なんだけどね、ちょうど出かけたみたい。家に誰もいないし……来る?」 緩んだ口もとをスマホで隠して聞くと、目を伏せた夏希はほんのり頬を染めて小さく頷いた。

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