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そのまま進んで家まで行き、玄関の鍵を開けて先に夏希を入れる。誰もいない静かな家の中で大人しく俺の後ろをついてくる夏希は、少し緊張しているみたいだった。
カナの靴がなかったから本当に図書館に行ったらしい。勉強熱心なことに感謝しつつ、頭の中は夏希に何をするかでいっぱいだった。学校がある時じゃできないようなことだって夏休みならできる。ちょっとハードなプレイもいいけど、時間もたっぷりあるしゆっくり追い詰めるのも楽しいだろうな。
部屋に入って念のため鍵をかけてからベッドに座った。夏希はドアの所で突っ立ったまま、特に何を言うわけでもなくじっと俺を見つめている。この距離だと少し目を眇めて見てくるから、睨まれているような気分になる。いや、本当に睨んできてるんだろうな。単に目つきが悪いのもあるけど、俺とそういうコトをするのにまだ抵抗を感じるのか二人きりの時はよく睨まれる。行為中の夏希を知っていると、このヤる前のツンツンした感じも可愛く思えてくるんだけど。
「どうしたの?こっちおいでよ」
「…………お前はほんとにヤることしか頭にないのな」
「だってそのために来たんでしょ?なに、それとも他のこともしたくなっちゃった?恋人ごっこでもする?」
「しない」
俺の隣には来てくれたものの釣れない態度に苦笑する。
夏希はセフレの中でも一番のお気に入りだし、セックス以外のこともやりたいと言えば――俺の気が向いたときに――やるのに。夏希はそういう俺に対する願望みたいなものってないんだろうか。ああ、そんなことを考えるなんて、本当に……。
俺は一度気に入ったものは飽きるまで離したくないし、独り占めしたい。俺だけのものにして側に置いておきたくなる。だからもし夏希がカナと面識あるなら取られないように頑張らなきゃ、ってらしくもなく思ったりする。
セックスは経験値的に俺の方が上手いだろうけど、性格とか内面的な事に関してはカナの方ができてる。そこは認めよう。家事もできるし優しいし面倒見もいいし、将来的にも優良物件間違いなし。身内から見てもそうなんだから他人からの評価も良いに決まってる。遊びのお相手なら俺が適任だけど、彼氏にしたいなら断然カナの方だろう。
それを裏付けるかのように、かつて俺と付き合っていた子もセフレも、カナに目移りする子が多かった。同じ顔で頭が良くて気が利く方がいるなら、より自分にメリットがある方と付き合いたくなるらしい。まあ確かに、俺の貞操は褒められたものではないけど、何度もそういうことがあると輪をかけて真面目に付き合うのが馬鹿らしくなってしまって……。悪循環だ。
それでカナに劣等感を抱いてるとかは全くないし、むしろ自分から関係を切らずとも向こうから自然と離れてくれるから便利だ、とさえ思ってるくらいなんだけど。
俺が乱れた生活をしていると当然カナは嫌がる。最近の俺は夏希にお熱だから少し落ち着いてるけど、皺寄せが全部カナに行くから堪ったもんじゃないらしい。俺が逆の立場だったら確かに嫌だ。でも、今の『みんなの遥果くん』ができた原因の六割はカナ本人だと言っても過言じゃないのに。
カナがきっちりしてる分、俺は緩いくらいが釣り合いが取れて丁度良いだろうし。
なんて余計なことを考えていたら、隣にいる夏希がトンッと肩をぶつけてきた。こっちを見ることはせず居心地悪そうに急かしてくる。
「…………遊佐?早くシねぇの?」
「んー?せっかくの夏休みだからね、何しようか考えてた。何かしたいプレイとかある?」
俯く夏希を覗き込むように顔を近づけると照れたのか反対を向いてしまった。こっちをじっと見つめてくる割には、視線を合わせようとすると逸らされるんだよなぁ。
「……別にない。好きにしろ」
夏希の言葉を聞いてから顎を掬ってキスをする。舌は入れずに唇を合わせるだけの優しいキス。お互いの存在を確かめるように何度も触れるだけのキスをした。こういうキスって夏希相手にしたことがなかったから驚いていたけど、今までの彼女にだってこんな風にしたことない。相手が望んでいたからいつもがっつくようなキスだったし。ただ、今は……俺の好きにしていいなら、恋人みたいに優しくしたい。どうしてそう思うのか自分でもよく分からないけど、とにかく、そんな気分だった。
なんだか自分で思ってたよりも、カナと夏希が接触したかもしれないってことに焦ってる。複雑な気持ちを持て余していた。
恋人ごっこしたかったのは俺の方だったのかもしれない、なんて思ってしまうのがあまりにも自分らしくなさすぎて心がむず痒くなった。
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