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放課を告げるチャイムが鳴って、教室は一気に騒がしくなった。今日は終業式だけだったから午前中で終わって、いつも勉強漬けでピリピリしてる特進科も、普通科やスポーツ科などの他の科と同じように解放感に満ちていた。「これからカラオケ行こう」とか「クレープ食べ行こう」とか、遊びの誘いが教室中を飛び交う。
そんな中こっそり教室を出て、普通科のある校舎を目指して渡り廊下を進む。特進科のとはまた違った、なんというか……元気な雰囲気。案の定、面倒くさそうな女子グループに声をかけられた。特進科では見たことのない顔だ。髪の毛を綺麗に巻いてキラキラのネイルをして、派手なメイクをしている。普通科の生徒によくみられる特徴で、俺の一番苦手なタイプの女子たち。
「ねぇ、あたしたちこれから映画見に行くんだけど、遊佐くんもどう?」
「ごめんね、これから用事があって……」
「もしかして彼女とデートとか?」
「え~?彼女つくらないって言ってたのにぃ」
後ろでキャッキャしてる三人、そして前に出て話しかけてくる二人、もしかしなくても俺をハルだと勘違いしてるらしい。
ハルのことが好きなら本人と俺の見分けぐらいつくようになりなよ、と思ったけど、現に俺は今、あの節操なしと見た目が一緒なことを利用して本人の振りをしてこの場を切り抜けようとしてるわけで。
今頃どこにいるんだか。さっさと探し出してやる。
「とにかく今日は行けないんだ、ごめんね?」
「えーリノ、遊佐くんと遊びたいよぉ」
「マユも今日は遊佐くんと一緒にいたいなぁ」
「……そんなに一緒にいたいなら、俺の用事に着いてくる?」
「えっ?いいの?行きたい!」
「やったぁ!どこいくの?」
色めきたった女子の声が頭に響く。昨日から体調悪いのに、なんでこんな目に合わなくちゃいけないんだ……。全部ハルのせいだ。一軍女子だとかファンだとか、そういうのは全部ハルの担当だろう。
「ちょっと清水先生に呼び出されててね。それじゃあ行こうか。君たちも一緒に」
「え、っと……リノはやっぱりいいや……」
「ま、マユも今日は遠慮しておこうかな……あはは……」
生徒指導担当の名前を出した途端に女子たちの顔が青褪めた。校則を片っ端から破りました、みたいなその格好じゃ、夕方まで説教されるのは目に見えている。鬼の清水先生の効果は抜群らしい。ばつの悪そうな顔をしてそそくさと去っていった。
ようやく女子グループから解放された俺はハルのクラスに来た。賑やかな教室内を見渡してみてもハルの姿はなく、代わりに副学科長の伊折くんを見つけた。窓際の席で友だちと喋っている彼の所へ行く。ここのクラスはハルにそっくりの俺が教室にいても、見慣れているからか騒がれなくて居心地がいい。
「伊折くん伊折くん」
「あ、遥果、お前……ってあれ、彼方か?」
「正解です。ちょっと聞きたいんだけど、ハルがどこ行ったか分かる?」
「さあ?ホームルーム終わってすぐ消えたな」
無駄に勘が鋭いから俺が来ることを察して逃げたのか、ただ単に用があったのかは知らないけど、伊折くんもどこにいるのか分からないらしい。
「遥果なら特別棟に居たけど。確か……彫塑室に入ってったかな」
「彫塑室って、PC室の隣の?」
「そう。三階の一番奥……は準備室だから、その隣だな」
近くにいたパソ研の部長さんがついさっき見かけたらしく教えてくれた。
特別教室棟、略して『特別棟』。普段の授業以外では立ち寄らないはずの校舎になぜいるのか不思議だけど、宛があるなら行く価値はある。
伊折くんと部長さんにお礼を言って、あいつが逃げる前に足早に特別棟を目指した。
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