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第2話*彼の名は*

ぺたっぺたっぺたっ。かかとをつぶしたスニーカーで病院の廊下をダルそうに歩き、 STAFF ONLYのドアをドカーンと開ける。 「みーすーずーちゃーん。おはよ」 「おはよう。もうお昼過ぎよツクモ」 「ねえ、あれ酷くね?なんでI字切開なの?喉元バックリいってくれてさー。体液も大変 だったんだけど、コットン代請求していい?」 ロングヘアにゆるくパーマをかけて後ろにまとめている清潔そうな女医が 「うふふ。あちらの大学にかけあってみましょうか?」 と笑う。 「でもオンコールの人を呼び出したからダメ」 「あーアキラの奴美鈴ちゃんにチクったの?タマの小せえ男」 「ツクモ、ここは他のスタッフも出入りするのよ、言葉使いには気を付けて。それでご遺体は?」 「んあ、とっくに十夜のところに行っているよ」 「そう、仕事が丁寧で早い。しかも完璧。私、医者になってツクモのような人初めて 出会ったわ」 少し尊敬の念を込めたような笑顔で美鈴がツクモを見つめる。 「えー。それじゃあ美鈴ちゃんがごほうびくれるのかなあ?」 白衣の胸元に手を伸ばそうとすると、 「今度のワクチン眉間がいい?臀部の奥の方かしら?」 伸ばした手がぴたりと止まる。 ぶーぶー言いながら帰って行くツクモを窓越しに見ていたら、 「泉守先生、今の人すごくかっこいいですね。お知り合いですか?」 数人のスタッフが聞いてきた。 「ふふっ止めておきなさい。あんな下半身が服着ているような男」 「彼はね、心とご遺体を修復させる天才」 「Embalmerエンバーマー。播磨九十九よ」 ☆I字切開・・Y字切開が多く知られている。I字の方がのど元までメスが入るので傷が目立ち検死の縫合はだいたい粗い。

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