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第8話*ツクモと十夜*
斎場に入り目立たないよう別室でみんなフォーマルに着替える。
黒いネクタイを締め、髪をワックスで固めたツクモと十夜達が準備をする。
小さい個室に両親が待っていた。去年成人式を迎えた娘が冷たくなって棺に入っている。
両親はそのような現状を受けとめられる状態ではなかった。
「お父様、お母様、お嬢様です」
ツクモと十夜が棺のふたを開ける。二人は言葉を失った。あれだけ病魔と闘い苦しんでいた
娘が、今にも目を覚ますような血色の良い肌、愛らしいメイク、そして純白のドレス。
母親はハンカチで押さえながらも嗚咽が止まらない。
「お母様、直接肌に触れてお別れが出来ますよ」
ツクモがそっと手を添える。母親はおそるおそる娘の頬に触れる。
「ごめんね。辛かったね。ドレスすごくきれいよ」
「あの、すみません」
「はい」
父親に声をかけられ十夜が振り向く。
「一人会わせたい人がいるのですが・・」
「ええ、もちろんどうぞ」
父親が連れてきたのは一人の青年だった。ツクモと十夜が目を合わせ、
「皆さん、五分ほど二人でお別れさせてあげましょう」
十夜の提案にガタガタとみんな席を立つ。その間にツクモが青年にささやく。
「口のグロスはあとで塗りなおします。エンバーミングという処置をしていますので、
お別れのキスもできますよ」
みんな部屋の外で五分間青年の叫びを聞いていた。
通夜は静かに進み、十夜は告別式の準備に入り始めた。
「あー、車十夜ので来たんだった。サリーたちどうすんの?」
「タクシーでそんなに遠くないから問題ないわ。播磨さんは?」
「ああ、ツクモでいいよ。一緒に乗って駅で降ろしてくれない?」
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