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第12話*少しだけあたためてあげて*①

アオイは急いで家に帰り二階の自室に駆け込もうとした。 しかし階段をなかほど進むとリビングにいる父親に気づいた。 「と、父さん」 「ん、どうしたアオイ」 読みかけの新聞を置いて息子の方に体を向ける。 「あ、あの今度、泉守先生っていつごろくるかなあ・・」 「なんだいきなり。泉守君だって勤務があるし、休みがあっても医者はなかなか忙しいんだぞ?」 「そうだよね。うん、ごめんなさい」 アオイは静かに自室に戻る。 あれから二日。考えてもアオイの考えはまとまらない。 『なんであの時ツクモさんは俺を抱きしめたんだろう・・。仕事で寒い所にいたって、 じゃあ俺じゃなくて泉守先生だったら泉守先生と抱き合っていたのかなあ・・』 「アーオーイーくーん」 下から大きな声がする。慌てて部屋を飛び出すと、 「い、泉守先生!」 「アオイくん。デートしよ」 「ええっ?」 「ふー。まだちょっと肌寒いけれど外の空気はいいわねえ」 『じゃあ空調のきいたイートインの方がよかったんじゃないかなあ・・』 公園のベンチで二人ホットドリンクを手にしていた。 「ねーえ、アオイくん。ツクモになにかされた?」 いたずらっぽく美鈴が聞いてきた。 ブッ。手にしたカフェオレがのどではないところに入る。 「えっ、べっ、別に何もされていません・・」 バレバレだ。何も隠せていない・・。 「キスでもされた?」 ブンブンと大きく俺は首を振る。 「そーお。キスでもすればいいのにツクモの奴。あ、アオイくんからでもいいわよ?」 笑いながら美鈴がけしかける。 『何を言っているんだ泉守先生は・・』 「あ、あの少しだけ抱きつかれました・・。仕事場が寒くてちょっとだけって」 「へー。ツクモはウソが下手ねえ」 「ウソ?」 「確かにツクモの作業をするところは低温管理されていて、作業自体も集中して 何時間もかかるからとても大変よ。でも彼はプロよ。そんな泣き言。言わないわ」

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