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第21話*愛しい人*
「山切先生はね、勤務医をされていた頃、研修医だった私の面倒をずいぶんとみて
いただいたわ。だから何かあるとすぐ甘えちゃって」
「そうだったんですか。泉守先生と連絡がつきやすいのは、そう言う訳だったんですね」
「そう。私は医者、十夜君はお父さんの斎場、ツクモはエンバーマー。それぞれの道は
違うけど・・私たち医大の同期だって話は前にしたわよね?」
「はい。聞きました」
「昔は四人だったの」
「?」
「ツクモは資格を取るためにアメリカに行ったから、実は私たちの後輩になるのよね。
でもアメリカに行っているツクモをずっと待っている人がいたわ。ツクモの恋人よ」
アオイは体に力が入り差し入れのドリンクを強く握った。
『そう・・だよね。恋人いて当たり前だよね。ツクモさんかっこいいし、仕事できるし』
「留学生だったのよ。とても日本語が上手で、努力家なのね。すぐに二人は恋に落ちた。
ツクモ達と四人。講義は大変だったけど私たちとても楽しくて充実した日々が続いた」
『知りたかったことなのに何でだろう。すごく聞きたくない』
「事故が起こるまでは・・」
「え?」
「交通事故よ。電話の履歴かしら、私たち三人が呼ばれて病院に行ったわ。
でももう私たちにはほほ笑んではくれなかった・・。言ったわよね、留学生だって。
だから本国に帰らなければいけないのだけれど、飛行機に乗せるにはエンバーミングが
必要なの」
「それって・・もしかして」
「ええツクモがエンバーミングしたわ。ライセンスも取っていたしね。でも初めてだった。
ご遺体の実習はもちろんあるけれど、彼にとっての初めての仕事は恋人のエンバーミングに
なったのよ」
「もちろん、他の方もいたのよ?でもツクモがすべて拒否したわ。そして帰ってきたとき
顔は優しくほほえんで今にでも起きだして私たちと大学に行くようだった」
「私はあのときツクモを天才だと思ったわ」
「そして手続きの書類に恋人ではなくエンバーマーとしてサインを。
エンバーミング証明書と梱包内容証明書。笑っちゃうわね。梱包よ?さっきまで人だったのに飛行機に乗せるにはモノ扱い」
「準備のために安置室に置かれたの。ツクモはずっと叫び泣いていたわ。私と十夜君は
ずっとベンチで夜を過ごした」
「ツクモって声が少しハスキーでしょう?」
アオイは小さくうなづく。
「あれはね、あの時泣いて喉をつぶしちゃったの。もう二度と会えない人の為に」
『え・・元の声じゃなくてつぶれてしまった声?』
「それからよチャラチャラ地に足がついていないように。人肌が恋しくなったら適当に声かけるようになったのは・・」
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