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第32話*初仕事*②

『ホントすごい人ってみんな言うけど、今は殴りたい!』 長谷川は、ご遺体の洗浄、メイクを行い、テーブルを変え、着替えに入った。 『ワンピース。上品な柄ね』 キョロキョロとあるモノを探す。 「何してんの?」 「え、ハサミを・・」 「何でハサミ?」 「着衣を切って袖を通し、あとで縫い付けるためです」 学校で習ったように長谷川が答えた。 「その服触ってどう思った?」 「え・・多分シルクで上品な柄だと」 「だよな。でもデザインが古い。それに年齢的に着られる柄でもない。だから故人もしくは ご遺族の気持ちがこもっている服だ。それを切れる訳?」 「き、切らずに着せられるんですか?」 「あ?切らずに着せられないんですか?」 マスクをしていても播磨さんの口元がにやついているのがわかる。 『悔しい』 ・・「お、終わったか?」 時間があまりかからないと思ったのだろう。東さんは帰らずリビングで待機していた。 「どうだった?」 「十夜くーん。誰に言っているのかな?」 十夜は棺を見て、 「ご苦労だった。長谷川さんもお疲れ様」 『東さんが今チェックしたのは私のメイクではなくて、きっとワンピースが切られていないことの確認。播磨さんなら出来るとわかっていたんだわ』 「いえ・・私など・・」 「仕事が終わったから帰っていいぜヒヨコちゃん。あれだったら十夜に乗せてもらえよ」 「バカ何言ってる。これからご遺体を運ぶんだぞ。悪いが今回は無理だ」 「あ、大丈夫です全然。じゃあ処置も終わりましたので、わたしはこれで。 次回もよろしくお願いします」 深々と頭を下げて友美はツクモの家をあとにした。 パンプスを鳴らしながら、駅に、早足で。 『悔しい悔しい悔しい!学校でも先生だって服は切ったわ。そのまま着替えのように 着せるなんて。同期の皆が興味持つのわかった。播磨さんの技術はけた違いよっ。 泣くもんか。泣くもんかっ!』 友美は涙をこぼさず、しかしまぶたを腫らし、血が出そうに唇をかみしめ、早足を止めるこ とはなかった。

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