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第35話*山岸兄妹*

「じゃあツクモ頼む」 「おー」 「では、こちらもお願いします」 サリーがいつものように衣装箱を渡す。 「なんかお前たちの服評判いいな。」 「まあ、ありがとうございます」 「お前、どうしてこの仕事選んだんだ。お前たちなら普通にデザイナーで食って いけるだろう?」 「それは・・」 サリーが口ごもる。 「ツクモちょっと煙草を吸ってくる」 「東さんは大人の方ですね」 「そうか?」 「・・以前私たちは本当にデザイナーをしていたんですよ」 「あ、そうなの?」 「ありがちですけど、きっかけは祖母との別れでした。私たちの仕事に影響を与えるほど素敵な女性でした」 こころなしかサリーの目は輝いて見えた。 「とてもお洒落な人でした。何が自分に似合って、何が自分を最大限に魅せられるのか、わかっている人でした。本当に私の人生のお手本のような人でああいう人の服を作りたいと心を動かされました」 「・・祖母は大往生でした。ですからお別れに悔いはありませんでした。でも葬儀の準備でバタバタすると何も言えず葬儀社の化繊の装束を着せられますよね。ショックでした。あんなにお洒落だった人の人生最後の服があんなものとは・・。最後によく着ていたワンピースを納棺させてもらいましたが、納得はできませんでした」 「初めてお仕事ご一緒した時ウエディングドレスでしたよね」 「あ、ああ」 「普通だったら葬儀にウエディングドレスなんてありえないと思います。でもご両親から見れば娘が家から巣立つときはドレス姿を見たかったんでしょうね。あのきれいなお姿は今でも忘れられません・・」 「ですから私はこれからも・・」 「うっ、ううっ、ぐすっ」 「あ?テメーいつからいたんだよ!」 「だって東さんから連絡いただいたんですものー」 「ツクモさん。この方は?」 「あー。半人前の預かりもの」 『ってたくよー。余計な時に来やがって、妹がいつしゃべってんのか聞けなかった じゃねえか』

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