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第36話*ワクチン接種*
「おい、洗浄と薬液配合だ。時間計るぞ」
「わ、わかりました」
『大丈夫。大丈夫』
自分に言い聞かせるように友美は手を動かす。
「終わりました。小切開に入ります」
「ん」
プッ
「あ・・」
友美の指先に赤く膨らむものが現れ、友美が理解しようとする前に・・
「きゃあっ!」
ツクモが友美の手を掴み、グローブを取り、流水で流す。水気を取り消毒液のトレーへ、
そしてまた流水で流して水気を取り、手元にあった接着剤で指先の傷口を塞ぎ、
「言え!俺達が一番気をつけることはなんだ?」
「習っていないのか!」
「か・・感染症です・・」
ツクモの見たこともない表情に、涙を見せることをひたすら耐えて友美は答えた。
「じゃあ状況はわかるな。帰れ。今すぐみすずちゃんの所に行け。今までもワクチン接種は定期的に行っているんだろうな?」
「は、はい」
「内容を言って一番に見てもらえ。もうこの部屋から出ていけ」
「あの・・」
「聞こえなかったのか?出ていけと言ったんだ。お前がここにいる限り処置ができなくなる」
友美は目に大きく涙をため、
「申し訳ありませんでした・・」
小走りに処置室を飛び出した。
「ちっ」
いつものようにアオイがツクモの家の裏口から入ってきた。
「んー。問題ないわけね?ありがと、みすずちゃん。でもさー、俺そろそろ限界なんですけど?みすずちゃんだってわかってるでしょ?俺は教えるタイプじゃないってさー。みすずちゃん?みーすーずーちゃん」
「切るなよー」
ツクモがスマホを投げ捨てる。
『ひゃっ!』
アオイは声を出さずに息をひそめた。しかし気配は消せない。
リビングのソファに深く沈み込み、アオイを見ないまま手招きをするツクモがいた。
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