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第45話*素質と資質*
ピンポーン
玄関のチャイムを鳴らし、長谷川が入ってきた。
「おはようございます。よろしくお願いしま・・」
『ひっ』
長谷川は声に出ないようにソファに座り込んでいるツクモを見た。
『え?なに。今日機嫌悪いの』
「処置室行くぞ」
「は、はい」
一定の低温に保たれた処置室だが、さらに凍ったように空気が冷たい。ツクモは両腕を組んだまま壁にもたれている。
「ほら、読み上げろよ」
いつもより強くツクモが吐き捨てる。
『何?何?』
長谷川は検案書を読み上げる。
「五十代、男性、死因はHIV。闘病生活が長かったため、顔色を明るめにして欲しいそうです」
「お前さあ、今回のコレ。なんだかわかるよなあ?」
「あ、はい。HIVですので粘膜感染です」
「この前自分がミスしたことも覚えているよなあ?」
「・・はい」
「みすずちゃんの考えがよくわからないんだけどさ、いきなりレベル上げてきたよな。いままでリスクグループ②なんてやらせたことないんだけど、なんかタレこんだ?」
「・・・・」
「言ったんだな!」
「播磨先生の技術が素晴らしいので、もっと学びたいと・・」
「余計なこと言いやがって。逆にそれが自分の首を絞めているんだよ」
「俺だって昔はケガもしたし、宗教の小物配置間違えたりたくさんしたさ。でもなお前にはまだクリアできていないもんがあるんだよ」
「クリアできないもの・・」
「資質だよ」
「お前に素質はある。これから現場をこなしていけば技術も上がって評価の高いエンバーマーになるだろう。だが俺から見れば資質が無い」
「資質・・」
「出来るけれど向いていないんだよエンバーマーに。一番大事なものが足りていない」
「え・・」
「最初に医大行けって言ったのはそこなんだよ。それがなにか自分で探せ。わからないならみすずちゃんの所に行け。今日の処置は俺がやる。お前はもう部屋を出て帰れ」
ツクモはそう言って長谷川を処置室から出した。
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