45 / 65

第45話*素質と資質*

ピンポーン 玄関のチャイムを鳴らし、長谷川が入ってきた。 「おはようございます。よろしくお願いしま・・」 『ひっ』 長谷川は声に出ないようにソファに座り込んでいるツクモを見た。 『え?なに。今日機嫌悪いの』 「処置室行くぞ」 「は、はい」 一定の低温に保たれた処置室だが、さらに凍ったように空気が冷たい。ツクモは両腕を組んだまま壁にもたれている。 「ほら、読み上げろよ」 いつもより強くツクモが吐き捨てる。 『何?何?』 長谷川は検案書を読み上げる。 「五十代、男性、死因はHIV。闘病生活が長かったため、顔色を明るめにして欲しいそうです」 「お前さあ、今回のコレ。なんだかわかるよなあ?」 「あ、はい。HIVですので粘膜感染です」 「この前自分がミスしたことも覚えているよなあ?」 「・・はい」 「みすずちゃんの考えがよくわからないんだけどさ、いきなりレベル上げてきたよな。いままでリスクグループ②なんてやらせたことないんだけど、なんかタレこんだ?」 「・・・・」 「言ったんだな!」 「播磨先生の技術が素晴らしいので、もっと学びたいと・・」 「余計なこと言いやがって。逆にそれが自分の首を絞めているんだよ」 「俺だって昔はケガもしたし、宗教の小物配置間違えたりたくさんしたさ。でもなお前にはまだクリアできていないもんがあるんだよ」 「クリアできないもの・・」 「資質だよ」 「お前に素質はある。これから現場をこなしていけば技術も上がって評価の高いエンバーマーになるだろう。だが俺から見れば資質が無い」 「資質・・」 「出来るけれど向いていないんだよエンバーマーに。一番大事なものが足りていない」 「え・・」 「最初に医大行けって言ったのはそこなんだよ。それがなにか自分で探せ。わからないならみすずちゃんの所に行け。今日の処置は俺がやる。お前はもう部屋を出て帰れ」 ツクモはそう言って長谷川を処置室から出した。

ともだちにシェアしよう!