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第51話*エンバーマーの義務*
アオイはツクモの家でテレビにくぎ付けになっていた。延焼は止まらず、TV局が近づこうにもたくさんの消防車に遮られ近寄ることすらできない。
「これ、消えるのかな・・」
ピンポーン
ビクッとアオイがドアの方を見る。背の高い男性と小柄な女性が部屋に入ってきた。
「ん。ああ驚かせてすまない。私は東十夜。名前で呼んでくれて構わない。そしてこちらが境明日見さんだ」
「境です。こんばんは」
彼女は丁寧に頭を下げた。
「あ、アオイです。こんばんは」
「ツクモに境さんを頼まれたのだが、女性と未成年では心もとないのでね。私も今晩は変わってもらったので一緒にいよう」
「え。あ、ありがとうございます」
ピンポーン
『え?また』
「早かったですね。山岸さん」
「えー、だってツクモさんの子猫ちゃんがいるって言われれば秒で動かないとー」
『お、大きい。女の人?』
「やーかわいい。素直そうな子。一緒に見ましょうか」
サリーはアオイの手を取りソファに座った。
『あ、手大きい。それにごつごつしてる・・』
いつの間にかリビングにはいつものツクモの仕事仲間が集まっていた。
「あ、あの十夜さん。これって火事ですよね?どうしてツクモさんが出かけたんですか?」
「ああ。俺も聞いた話だが出火元は道路に面した飲食店のようだ。そして何かに事故で爆発を起こしてしまった。一軒だけならまだしも周りに広がってしまい、あそこは建物が密集していて消防車が入れない。だから一酸化中毒で亡くなる方が増えてくるだろう。ツクモはそういう方に防腐処理を行い、身元判明までの時間稼ぎをするんだ。
「え、あんな火事の中で?」
「アオイくん。エンバーマーはね大きな事故が起こった時かけつける義務があるんだ」
「ボランティアってことですか?」
「無償の奉仕だよ。ご遺族と再び会えるように。ツクモも俺もこんなことは慣れている。アイツは自分よりも他人の家族を優先させることを選んだんだ」
☆過去に大きな電車の事故があった時には海外のエンバーマーも派遣され、全てのご遺族と対面が叶ったという。
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