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第58話*エンバーマーの心の寄り添い*

アオイを送りだすと、ツクモは山切の元へ行く。 「山切先生、お伺いしてもよろしいでしょうか」 「母がね、階段から滑り落ちてしまったんだ」  見ると確かに人型は階段の下に印を付けられている。 「もう年だし、そろそろ親の部屋を下にしようと考えていた所だったんだよ。母もいつも階段の手すりを持っていたからね」 「でも、いきなり警察って」 「母が転落した時、誰も目撃者がいなくてね。事件と事故と両方調べるようだ」 「たまたまの事故だとは思うんだがね」 「司法ですか」 「ああ、でもすぐに帰って来るだろう」  ツクモの顔は険しい。 「警察が来る前に軽く母に触った。大きな骨折はない。ただ頭を打ったらしく目元の近くがうっ血している。眼球周りに骨折があるかはちょっと専門外でね」 「山切先生?」 「同意書は私が書くから、母を綺麗な顔で送り出したい。エンバーミングを依頼したい」  少し悲しい笑顔で言われた。ツクモは深々と頭を下げる。 「そして少し父と話をして欲しい。少し気になっていることがあるようだ」 「わかりました」 ツクモはアオイの祖父の所へ向かう。 「失礼します。私、エンバーマーの播磨九十九と申します。奥様のお顔は綺麗な状態になりますから、ご安心ください。他に気になっていることや、ご希望するようなことはありますか?」 「あ、あの・・非常識かもしれないのですが・・」 「ご遺族様が悔いなく送り出されるのをお手伝いするのが私の仕事です」 「アオイくん?」 「ツクモさん・・」 「おじいさんとお話ができたから帰るね。今日は辛いだろうけど、寝て?これから慌ただしくなっていくからね。ジャケットおいていくから俺だと思って?」 アオイの頭を優しくなでてツクモは部屋を出ていった。

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