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第60話*二度目の結婚式*

「おいひつじ。サリー入れろ」  処置室のドアが開く。 「え?処理中・・」 「お前さあ、俺を誰だと思ってんの?あとは着衣だけでちょっとコツがいるんだよ」  ツクモに言われていて、すでにサリーは作業着には着替えていたので、 「じゃあ、グローブとマスクをお願いします」 「ありがとう」  サリーはひつじから受け取ると大きめの箱を持って処置室に入った。 「今回の服はなんなのかしら。箱が大きいわね」  かけつけた泉守が不思議そうに見つめていた。 「どうもおじいさまからのお願いらしい」  十夜が答えた。 「おい十夜!手を貸せ」 「俺は作業着を着ていないぞ」 「ああ。作業は終わっている。消毒はひつじにやらせるからいい」 「えー。播磨さん、人使い荒いですう・・」  嘘が苦手な羊子は少しふくれていた。 「おい。棺桶屋!」 「境です!ご用意してあります。いま十夜さんが持っていきました!」 「おい、これを全部覆うのか。布が足りないだろう?」 「あ、大丈夫。隠れるやつを持ってきているの」  サリーがフォローする。サリーが棺に布をかける。大きく隠れて全く中が見えない。 「問題は十夜のに乗るか?少し重いぞ」 「大丈夫だ。山岸さんから服がいつもより重いと聞いて、一番強いものを持ってきた」 「よし。山切先生の所へ行くぞ」 みんなで白い布が飛ばないように抑え、アオイの家に向かう。みすずと羊子が玄関を大きく開け、おばあさんをリビングの中央へと連れて行く。おじいさんは立ちつくし、アオイは父親にしがみついていた。ツクモが静かに言う。 「山切さん。奥様が帰ってまいりました」 ツクモが布を取ると、そこには顔のあざもなく薄化粧に控えめな紅を差し、白無垢姿でほほ笑むアオイの祖母が眠っていた。 「おばあちゃん!!」 かけよろうとしたアオイにツクモは優しく手をかけ、 「アオイくん。今はね、おばあちゃんじゃなくて、おじいちゃんの奥さんだからね」 おじいさんはよろよろと近づき、棺の端に手をかけてうずくまった。 「こんな、こんな非常識な頼みごとを申し訳ありません。わし等が若い頃は貧しくてこいつに着物を買ってやることなんてできなかった。まして結婚式なんぞ・・。きっとこいつも夢見ていた頃があっただろうに。生きている時に着たかったろうに」 「指もごらんください」 ツクモが促す。指にはアオイが渡した指輪がはめられていた。 「もう一度あなたに嫁ぎに行きます。エンバーミングという処理を行っておりますので、お顔も手も触れます。あと少しの間、奥様といままでの思い出を語って下さい」 「さ、アオイくんも準備があるから先生の所へ行って?」 ツクモは優しくアオイをリビングから遠ざけ、老夫婦だけの時間を作った。

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