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第61話*送る人々*

「女性はさー、二階のベッドルーム使って?男はリビングでイイだろ?」  今回は近しい人のためツクモ達は家でフォーマルに着替える事にした。 「あ、サリー。サリーどーすんよ?まあみすずちゃん達は平気だから二階で大丈夫だけどなー。それよりも今回わりと無茶ぶりさせたけど、あの簪なに?べっ甲じゃねえの?よく手配ついたな?」 「ツクモさんにあるように、私にも少しくらいのコネクションはありますもの。あの時代の方は華美なものより上質なものを好みますわ。それより、もちろん本物ですので何かあったらツクモさん私の足元で一生下僕ですわよ」 「うわー。マジでやりそうでサリー怖え・・」 「ほら!着替えたのか早く車に乗れ!」 十夜がみんなを追い立てる。 いつも見慣れているはずの職場としての光景。ただ今回は親族席に大事なあの子が目を腫らして座っている。きっとおばあちゃん子だったのだろう。弔問客にもほとんどあいさつができていない。そばにいてやりたいが今は立場が違う。 「子猫ちゃん。ずっと泣きっぱなしですわね」 「おいサリー。黙ってろよ」  ツクモの声がイラつく。 「あら怖い。ふふ」 「なんだよ」 「いえ、ツクモさんと最初にお仕事させていただいた時も花嫁衣裳だったと。ドレスはありますが、正直花嫁衣装は少ないものですから。これもツクモさんと繋がりが出来たという事なんでしょうね」 「気持ち悪いこと言うな」  ツクモが吐き捨てるように言う。 「あら、しっかりとできているじゃないですか?あの赤い目の子猫ちゃんと」 「アオイくん・・?アオイくんとの繋がり・・?」 「これからずっと大切にされていくんでしょう?」  にっこり微笑むサリー。 「お前・・」 弔問客はみんな驚いていた。眠るように紅を引いた温かみのありそうな肌。刺繍の豪華な白無垢にべっ甲の簪。プレゼントされたオパールの指輪。 今にも起き上がりおじいさんの横を静かに歩きだしそうだった。幸せそうに微笑む花嫁の最後の姿に弔問客は涙が止まらなかった。 告別式にはツクモ、みすず、十夜の三人で見送りに来た。 「アオイくん悲しんでいるでしょうね」 「ああ、でもそういう仕事を選んだのが俺たち三人だ。これからも俺たちは向き合っていく。目の前でそれを見守っていくのが俺たちの仕事だ」 少し厳しい声で十夜が言う。 ツクモは何も言わずただ空だけを見ていた。

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