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第62話*シルバーリングとアオイ*
ふう。
ツクモがマスクとグローブをダストボックスに投げ入れる。
「お疲れ様でした。播磨さん」
「もうすぐ十夜がくるから、あとやっておいて。俺少し寝る」
「え、あ、はい・・」
羊子に簡単に引継ぎをするとツクモは作業着を脱ぎ二階へ上がった。
あの日から数日たった。アオイは姿を見せない。まだ慌ただしい日が続いているのだろう。
『もう何日顔見てねえかなあ・・』
「・・・」
下で会話?十夜がもう来たのか早いな。そうしたら早めに寝てしまおうか。戸締りなんてあっても無くても関係ないもんな。ん?誰か上がって来る?ここはみすずちゃん達ですら上がってこないのに。
静かにドアが開く。
「ツクモさん。起きてる?」
アオイの声が静かにベッドに響いてくる。
「アオイくん?」
ツクモがベッドから飛び起きる。
「どうしたの?まだお家の方は大変だろう?」
「大丈夫です。だいぶ落ち着いてきました。ね、ツクモさんこれ返します」
そう言ってアオイはツクモの手にあるものを握らせた。ツクモは感触でソレがわかったがゆっくり手を広げた。そこには二個のシルバーリング。ツクモは出来るだけ表情に出さず呟いた。
「ごめんね」
「どうして謝るんですか?」
「俺の過去を。忘れたい事を。アオイくんに押しつけた」
「ちゃんとわかっていてしたんですね」
ツクモはうなだれてアオイを直視できない。
「これはツクモさんのものだから、俺のものじゃないから。この指輪をしていた時のツクモさんと恋人さんはツクモさんの人生だから絶対手放しちゃいけない。これはツクモさんの体の一部なんです」
アオイの言葉に何も返せずツクモはシルバーリングを見つめていた。
「うん。そうだね。アオイくんに勝手なことしてごめん」
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