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【年下部下×年上上司・潮】君とおでんを食べたい(1)
単身者用のマンションのキッチンで、美味しそうなおでんが煮えている。煮立たない程度にクツクツと音を立てる具材は味の染みた色をしている。
俺はその一つを摘まんで、口に放り込んだ。
「うん、美味しい」
満足に笑い一旦火を止める。それをコタツの上に置いてあるIHコンロに運んだ。
一人で食べるには多いおでん、キッチンには熱燗を作る為の湯も沸いている。徳利は一応四つくらい準備したが、コタツの上にお猪口は二つ。慌てて用意したから百均になった。
普段は一人分の料理しか並ばないコタツの上にあるおもてなしに、ちょっとドキドキしている。部屋を見回して、見られてはいけない物がないかをチェックして、落ち着かない時間を過ごしている。この部屋に誰かを招くのは、初めての事だ。
会社ではいい人。それなりに付き合いもいい。けれど部屋に誰かを招いたり、休日を誰かと過ごすようなタイプではない。
「プライベートどうなってるんだろう?」の典型みたいな俺に転機が訪れたのは、今年の六月の事だった。
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「新人の谷川涼太くんだ。教育係頼むよ、長谷川くん」
そう言われて紹介されたのは、大学出のいかにも出来そうな新人だった。
ちょっと生意気そうな目元に、薄茶色の髪。緊張している様子はなくて、どこか不敵な感じがした。
「初めまして、先輩。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
第一印象は苦手なタイプ。その後一ヶ月を一緒に仕事しても、やっぱり苦手は消えなかった。
そんな相手が二ヶ月過ぎるくらいには「先輩かわいい」を繰り返すようになった。
バカにしてと悔しいけれど、この頃にはもう俺の教育なんていらないんじゃないかってくらい仕事ができた。むしろ俺のほうがフォローされる事もあった。
情けなくて、何度も教育係を降りたいと上司に言ったが「今は人が空いてなくて」と言われてしまい、どうしようもないまま自信だけを失っていった。
そんな時に、おもいっきりやらかしたのだ。
三ヶ月が経って歓迎会をやることになり、飲み過ぎた俺はよりにもよって谷川とやってしまった。
先に目を覚まして焦りまくり、「酒のうえでの事だから」ということにしようと必死になっていた。
そんな俺に谷川は「先輩が好きです。これを機会にお付き合いしてください」と言われた。
ドキドキだ。なにせ自分がゲイだってことを親にも言えなかったんだ。
誤魔化そうとして、でもそれも出来ないくらいしどろもどろで、そこからは強引な谷川に丸め込まれて付き合うようになった。
悪くなかった。というよりも、色んな事が変わった。休日の過ごし方、アフターの過ごし方、着る物や、切ない夜や、嬉しい事や。
今日も実家からお酒と大根が送られてきたからおでんを作ると言ったら、食べたいと言われたのだ。
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