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第2話

「ねぇ結木ってばぁ。こんなところいないで早く行こう?」 「そうそう。みんな待ってるよ、カラオケ。ね?」 「んー……」  そうだ、この二人と一緒なのだった。図書室内へと進みながら結木は自分の状況を思い出す。  中ほどにある椅子に腰を下ろすと、隣に座った女子は結木のカッターシャツをつまみ、もう一人は髪に触れてきた。少し長めの髪は無造作にまとめハーフアップに結ってあり、そこに鮮やかな指先が絡んでくる。こんな風に気安いスキンシップをされるがまま受けるのは、結木にとっていつものことだった。  やはり何故か気乗りがせず、けれど角が立たないようにと断るのは骨が折れる。それならやはり行ってしまおうと決心しかけた時だった。カウンターからの視線に気づき、結木は顔を上げる。湯川がまるで氷のように冷えきった表情でこちらを見ていて、眉間には薄らと皺まで刻まれている。  あぁ、なるほど。他の利用者と比べれば、自分達は異質だと結木はすぐに思い至った。こんな風におしゃべりに勤しむ者はひとりもいない。静かにしろと暗に忠告されているのだろう。  普段ならこんなこと、そこまで気にはならなかったかもしれない。カウンターに座る男は結木の“友達”ではないし。じゃあどうしてこうも胸が騒ぐのか。首を傾げた結木の脳裏に、先ほどの湯川の無音のため息が浮かんだ。 「やっぱり今日はやめとくね」 「え、なんで!?」 「うわー珍し……何か用事でもあるの?」 「んー……みんな待ってるなら早く行ったほうがいいんじゃない? あと、ここ図書室だから」  そう言って人差し指を口に添え辺りを見渡してみせると、二人はハッとし口を噤む。それからまたねと手を振ると、本当に行く気はないのだと分かってくれたらしい。今度は遊ぼうね、との小さく抑えられた声に、結木はまた笑顔で手を振った。  天井を仰ぎ、ふう、とため息をひとつ零す。この性格が災いして面倒なことになっているのだと分かっている。最初から行かないときっぱり言えればいいのにそれが出来ない。来るもの拒まず、去るもの追わず。それが一番楽だった。

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