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第4話

「えっと……一年D組、ユウキ、ケイくん。だね」 「あ」 「へ?」  貸出カードを結木の手から受け取った湯川は、記された名前をそう誤って読み上げた。ただ、それは百人いたら百人が間違える様なもので、けれど。あぁ、これだ──この先輩との繋がりを俺が作ってみせる。結木は細い糸が目の前に静かに垂らされた感覚を覚えた。 「先輩、次はいつここにいます?」 「……ほぼ毎日いるけど」 「毎日」 「なに、なんか文句ある?」  毎日ここにいる……毎日のようにああして、押し付けられる仕事を笑って引き受けているのだろうか。 「じゃあ来週。来週の月曜にまた来るんで。先輩も絶対いてくださいね」 「はあ……別に返却は僕にじゃなくても出来るけど」 「返却もだけど。これの感想、言いたいんで」 「…………」 「あと、俺の名前“ケイ”じゃないです」 「へ? あ、ごめん!」 「大丈夫です、いつもの事だし。本当の読み方、その時に教えるんで考えといてください。答え合わせしませんか? 湯川先輩」 「う……分かっ、た」  名前を間違えた事に、湯川は結木が思った以上に後ろめたさを感じているようだった。結木の身勝手な申し出に頷いたのはそういうことだろう。湯川の持つ優しさを垣間見たような気持ちになる。  どこか呆然としている湯川を見つめてから、借りた本をひらひらと顔の横で振って結木は図書室を後にした。  “ケイ”じゃない、と伝えた時の慌てた顔は偽りじゃない素の姿だったような気がする。それがどうしてこんなにも嬉しいのだろう。くく、と漏れ出る笑みを結木は真新しい本に隠す。もっと知りたい、あの人を。そのためにはまず、この本だろうか。絶対に読み切ってやる。  そう決意して、図書室に入った時よりも軽やかな足取りで学校をあとにした。

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