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第8話
途中の自動販売機で飲み物を買って中庭に出た。設置されているベンチは誰もおらず、そこに並んで腰を下ろす。
湯川はカフェオレの入ったペットボトルの蓋をあけ、二口ほど飲んだ。それにつられるように結木もソーダを口にする。パチパチと弾けながら喉を通る炭酸が心地いい。
「どうだった? あの本」
「面白くてびびった」
「びびった? あは、何それ」
「…………」
「ねぇ、さっきからなに? 僕の顔になにかついてる?」
「あ、いや……えぇっと。ごめんなさい」
「ふふ、別に謝らなくていいけど」
湯川が小さく笑う度、結木はつい息を止めてしまう。あんなに見てみたいと願った表情が、こんなにそばでこんなにも早く花開いているのだ。見つめずにいられなかった。
「なんか、結木くん最初のイメージと全然違うね」
「イメージ?」
「うん。女の子たち侍らせて図書室なのにうるさいし。不良だと思った」
「侍らせて、って……そんなんじゃないし」
「はは、そっか」
「っ、イメージと違うのは湯川先輩だって同じですよ」
「へ? そう?」
こんな風に笑ってくれるとは思ってもみなかった。
結木は初めて湯川を目にした瞬間を思い出す。あの偽りの笑顔に、仕事を押し付けたあの生徒は気づかないのだろうか。反芻すれば自分の事のように、結木の心の奥はチクリと痛むのに。
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