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第10話

「あ! そうだ」 「わ、何?」  ひとしきり話した後、乾いた喉を二人して潤した。湯川の持つボトルの中で、カフェオレがぽこぽこと揺れている。そんな光景を見ながら途切れた会話の静けさに身を任せるのもまたいい。  行儀が悪いと注意されるだろうかと思いつつ、結木がベンチに両かかとを乗せ、空を仰いだ時だった。突然あがった声に、結木は自分より頭一つ分くらい下にある湯川の顔を見つめる。 「名前! 結木くんの名前、聞いてない」 「あー。そう言えばクイズにしてたんでしたっけ」 「そうだよ、僕ちゃんと考えたから教えてほしいんだけど」 「ふ……ちなみに先輩の答え聞いてもいい?」  そうだった。名前を“ケイ”と読み間違えられて、それも今日伝えると言ったのだった。膝の上に頬を預け、湯川の真剣な横顔を眺める。えっとね……と指を折りながら、湯川は先ほどの結木のように空を仰いだ。 「あの字には名のりがたくさんあるんだよね。あきら、はじめ、さとし……どれかなあって決められなかった」 「へぇ。じゃあファイナルアンサー今決めてください」 「え、ひとつ?」 「はい。当たったらいいものあげます」 「えぇー、それは当てたいなぁ」  目を閉じた湯川は、ささやくように唇を動かす。それから「あ」と呟いて、結木を見上げる。まるい瞳に陽がさす。あぁ、この人は虹彩もほのかに淡くて綺麗なんだ。細く笑んでまぶたに多くが隠れても、結木を惹きつけてやまないくらいに。 「決めたよ」 「…………」 「結木くん?」 「あ、あぁ、はい。じゃあどうぞ」 「あのね、ハル。ユウキハルくんでファイナルアンサー。どうかな?」 「っ、なんで? なんでそう思ったんですか?」  また見惚れてしまっていた。気を取り直して先を促すと、湯川はどこか確信めいてそう言う。  結木が驚くのも無理はない、今まで誰にも当てられたことはなかったのだから。

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