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第11話
「うーん、それは……間違ってたらすごく申し訳ないけど、他のどれよりハルが似合うなって思ったからかな」
「似合う?」
「うん。今日こうして話してて、春みたいにあたたかい子だなぁって思ったから」
「…………」
「あ、やっぱり違った? 結木くん? おーい」
「ちょ、今こっち見ないでもらっていいっすか」
結木はあわてて膝に顔を伏せた。赤くなっている自覚があるからだ。
友達と呼べる人ならいる、きっと、たくさん。でも、皆といるのは楽しいけれど、自分の意思を口にするのは苦手だった。皆の総意にたゆたって、それが心地よかった。それでいいと今でも思うし、そんな自分を康太たちは受け入れてくれている。ただ、そんな自分は皆にどう思われているのだろう。少なくとも、湯川のように「あたたかい」だなんて言う人はいないのではないか。
「もしかして怒ってる?」
「ううん、全然怒ってない」
「じゃあ、ハルはあまりにもかけ離れてた?」
「っ、──です」
「へ? なぁに?」
もうどうにでもなってしまえ。頬の熱はまだちっとも引いていないと分かっていたけれど、結木はガバリと顔を上げた。覗き込むようにしていた湯川が驚いて仰け反るから、茅色の髪がふわりと揺れる。
「正解、です」
「え……ほんと?」
「ほんと。初めて当てられた」
「わぁ……やった!」
まるで子どものように、湯川はくすくすと笑ってはしゃぐ。本当に、微笑みの貴公子なんて誰がつけたのだろう。湯川はこんなにも表情豊かにコロコロと色を変えるのに。
「そんなに喜びます?」
「だって、あれからずーっと考えてたからね。しかも初めてなんて嬉しいに決まってる」
「っ、ずっと?」
あの日からずっと湯川は自分の事を考えていた。伝えられた事実に不思議なくらいに胸は甘く疼く。
「うん、ずっと。だから嬉しい。ほんとに……いつぶりだろうってくらい」
湯川はそう言いながらそっと唇を噛んだ。口角は優しく上がっているのに、どこか切なげに結木には映る。どうしたのだろう。問おうと息を吸ってみたけれど、その表情は一瞬で消えていった。
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