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第13話

 そろそろ帰ろうかと立ち上がり、湯川の手に空っぽのペットボトルを見つけ結木は声を掛ける。 「湯川先輩。それ捨ててくるんでこっちにください」 「あ、ありがと。……ねぇ啓くん」  校舎内に向かおうとすると、湯川が結木を呼び止めた。どこかいたずらっ子みたいな顔だ。これだって他に知っている人はそういないのだろうかと思うと、結木の胸は甘酸っぱく鳴いてしまう。 「なに?」 「名前当てたしもう一個ご褒美お願いしてもいいかな」 「へ……あ、俺、ちゃんとものも用意してたんすよ。飴です」 「わ、イチゴ味だ。ありがとう。って、これも嬉しいけどもう一個」 「ん? 結構欲張りですね」 「はは、うん。僕も驚いてる」  湯川は結木の隣に立ち、随分と身長差のある後輩を見上げる。  眩しいと翳した手は、太陽がなのか、結木が、なのか。 「僕も名前がいいなぁ」 「え」 「ね、啓くん。僕の名前も呼んでくれる? アオイ、だよ」  こてん、と首を傾いで、湯川の肩を茅色の髪先がすべる。自分の体じゃないのに、結木は何故かくすぐったい心地がした。  釘付けだ。自ら何かに手を伸ばしたのはいつぶりで、こうして鳴く胸は何を訴えるのだろう。甘い、くるしい……それがいい。湯川にねだられれば、恥じらいでも何を捨ててでも叶えるしか結木に選択肢はなかった。 「ふ……知ってるよ。アオイ先輩」

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