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第18話

 固く強張ったその声色に、蒼生はめいいっぱいの勇気を振り絞ったのだろうことがすぐ分かる。けれど簡単にはその男子生徒も引き下がらない。 「え、なんで!? いつもやってくれるのに」  その“いつも”を当たり前のように捉えている不貞腐れた態度が啓は腹立たしい。なにか一言、先輩であろうとこの人相手に言ってやりたくなる。らしくないな、と康太が見たら笑うだろうけど、それくらいの衝動があった。  けれど、啓が動く前にまた蒼生の声が響く。 「っ、ごめん。僕、今日大事な用があるから。帰りたいんだ」 「っ!」  啓は大きく息を飲み、崩れ落ちるかのように扉の横にしゃがみ込む。バクバクとうるさい心臓が痛い。声が漏れてしまいそうな口を手で覆って押さえた。 「んー……マジか。じゃあ無理だよな」 「うん……ごめんね」 「いや、湯川に甘えてたの俺だし。いつも悪かったな」 「っ、ううん。気にしないで」  断られた生徒は激高することもなく、それなら出来なくて当たり前だよなと引き下がった。蒼生がそれに心底ほっとしていると声だけで啓は分かる。けれど、俺のこの感情はどうしたらいい──時間は誰にも平等に一秒ずつ進むのに、啓の心だけはなにも整理がつかない。  蒼生が初めて、理不尽に押し付けられる仕事を断った。大事な用があるから、と言って。廊下で会った時、啓と帰ると蒼生は約束してくれた。“大事な用”は、俺との約束……。  あぁ、体中が、全部があつい。

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