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第19話
「じゃあ、僕帰ります」
蒼生がカウンターに声をかけ、それにお疲れ、と答える複数の返事が啓にも聞こえる。けれど啓はまだ立ち上がることもできない。
「わっ、あれ? 啓くん?」
「っ、」
廊下に出てきた蒼生はしゃがみ込んでいる啓に驚いたようだ。けれど、声をかけられても啓はまともに反応ができない。それでも何か言わなきゃ、と伏せた顔を少しずらすと、間近に蒼生の顔があって啓はすぐにまた膝に伏せる。啓を心配していつの間にか隣にしゃがみこんだようだった。
「う、マジかぁ……」
今はもう、蒼生が何をしても何を言っても、啓は自分の気持ちを痛感するばかりだ。“もにょもにょ”が、ほらね、とほくそ笑んでいる。
「大丈夫? お腹痛い?」
蒼生がまた啓との距離をつめ、あろうことか啓の背をさすり始める。ああもう本当に──
「蒼生先輩」
「ん? なぁに?」
「俺、ダメかも」
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