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第20話

 一緒に帰る約束だったけれど、じゃあねと別れを告げる駅まで鈍行に揺られたって三十分ほどだ。それじゃ足りない。せっかく蒼生が勇気を振り絞って得たこの時間をたくさん一緒にいたい。中庭に行きたいと啓がねだれば、蒼生はすぐにいいよと頷いた。  蒼生の手にはソーダ、啓はカフェオレのペットボトル。定番の飲み物が反対になる日が増えたのはいつ頃からだっただろうか。お互いの手にあるそれに二人して驚いて、いつも先輩が──いつも啓くんが──飲んでるから気になったんだよ、と笑いあった日を思い出す。 「本当にどこも痛くない?」 「うん、痛くない」 「そっか。よかったぁ……ダメかもなんて言うから心臓止まるかと思ったよ」 「あは、それは大袈裟でしょ」 「ううん、大袈裟じゃないよ」 「っ、そっか」 「ふふ、うん」  蒼生は安心したようにそう言って、プシュ、と音を立てソーダの蓋を開けた。ぽこぽこ、しゅわしゅわ、ごくん。蒼生が奏でる音のひとつひとつが啓の中に積み重なって、恋心を彩る。  好きなのだと気づいてしまった、蒼生のことを。 「ねぇ、蒼生先輩」 「ん。なぁに?」 「今日は当番代わるの、断ったんだね」 「あ……うん」 「緊張してた」 「え、見てたの?」 「後ろからだけど。うん、聞いてた」  啓もカフェオレを開けてひと口飲み、いつかの様に空を見上げる。いつもより綺麗だ。きっと隣に蒼生がいるからで、恋をしていると気づいたから尚更、だ。 「うん……すっごい緊張した。でも」 「でも?」 「啓くんと帰れるんだと思ったら、うん……頑張れちゃったな」 「っ、そ、っか」 「うん」  照れくさそうに笑いながらもふう、と息を吐くのだから、蒼生はやっぱり大きな勇気を使ったのだ。その理由に自分がいたのだと思うと、啓の胸はきゅうきゅうと甘酸っぱく音を立てる。  詳しくは分からないけれど、蒼生がいつも微笑みに心を隠して断る事を恐れるのは、何か理由があるのだろうと啓は思う。そんな蒼生の勇気を、どうにか労いたい。そう思えば、自ずと伸びる手を啓は止められなかった。

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