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第21話

「わ、な、なに!? 啓くん!?」 「んー、いい子いい子してる」 「な……」 「いや?」 「い、いやじゃない、けど……」  綺麗だと思っていた茅色の髪に初めて触れた。見た目の通りやわらかくて、蒼生を褒めるようにしたいのにまるで自身の心が包まれるような感覚だ。蒼生の髪は啓の大きな手を受け止めて、指の間をさらさらと流れてゆく。 「頑張ったね。蒼生先輩」 「っ、啓くん」 「えらいし、俺うれしいし。先輩すごいね」 「っ、そんな褒めても何も出ないよ?」 「あは、何もいらないよ。先輩とこうして話せるのが嬉しいから」 「もう……」  平然を装いながらこんな事をするのはなんて難しいのだろう。それでもこうしたい。蒼生が目を伏せてくれていて助かったなと啓は思う。きっと真っ赤な顔をしている自覚があるから。手の甲を頬に当てている蒼生もそうだったらいいのに。そんなことを願ってしまう。気付いたばかりのくせに恋心ってやつは欲張りらしかった。 「そう言えば、もにょもにょの正体は分かった?」  空になったペットボトルを手の中で遊ばせながら、蒼生が啓を見上げた。時折冷えたボトルを当てるようにしていたから、水滴が頬でキラキラと夕陽を反射している。濡れてるよ、と言いながら指で拭うと蒼生はまた顔を逸らした。 「うん、分かったよ」 「そっか。何だった?」 「んー……」  答えに至ってみればシンプルなもので、いわゆる嫉妬ってやつだ。蒼生にはいつだって無理なんかせず、本当の笑顔で笑っていてほしいと願うのに。康太相手にそれを見せたことに啓は面白くないと思ってしまったのだ。  その笑みが俺だけのものだったらいいのに……シンプルで、ガキっぽい、ひとりよがりな感情だった。そいつは自覚したその瞬間から、蒼生が好きなのだろうと啓を追い立てた。その通りだと知らせたのは蒼生の勇気だ。 「教えない」

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