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第22話

「え」  正しくは“教えられない”、だけれど。  そう秘めてたっぷりと取った沈黙の後告げると、蒼生はきょとんとした顔を夕焼け色に染まり始めた空の下で見せる。それからくしゃりと歪んだから、啓の胸を強くえぐった。 「あっ、ちが、ごめん」 「な、なんで謝るの」 「だって、蒼生先輩……悲しそうな顔してる」 「っ、それは……ほら、廊下で会った時に探しとくって言ってたから。その……」  慌てながら両手を空中でばたつかせても何にもならない。どんどん下がる頭はとうとうつむじを啓に晒している。  笑っていてほしいと願うくせに、他の誰より、図書委員のアイツより、俺が蒼生先輩を悲しませている──その事実が悔しくてギリギリと唇を噛むのに、それでもやっぱり言えないのだと啓は思う。 「言ったら、困る」 「え?」 「もにょもにょの正体、言ったら絶対困るから」 「え、っと。僕が?」 「うん。でも……言わなくても困らせてる。俺どうしたらいい?」  ゆったりと顔を上げた蒼生は、今の今まで辛そうにしていたのに、啓を気遣うように首を傾げながら顔を覗きこんでくる。何かを恐れているはずの蒼生なのに、そうやっていつも啓を大事にする。好きにならずにいられるわけがなかったのだ。男同士だとかそんなもの、どこかに吹き飛んでしまうくらいの熱量で。 「啓くんこそ困った顔してるよ」 「俺はいい。蒼生先輩がどうかのほうが大事だから」 「っ、そんなのだめだよ。僕だって、啓くんがちょっとでも悲しかったりするのはイヤだよ?」 「でも……」  どうしたらいい。考えあぐねていると近くの渡り廊下を数人の生徒たちがにぎやかに通り過ぎる。そう言えば、蒼生と過ごす時間はまるで世界で二人きりになったみたいに夢中だったなとぼんやり思い出す。 「蒼生先輩、俺さ」 「うん」 「先輩が笑ってくれるとすごい嬉しくてさ。でも、俺……それを一人占めしたかったみたい」 「え……」 「ね? 困るでしょ」  ビクリと体を揺らして、蒼生はわずかに体を仰け反る。たった数センチ空いてしまった隙間がこんなに切ない。 「でも、」 「そ、それってただ、僕が仲のいい先輩、ってことだよね?」 「っ、え……?」

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