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第23話

 でも気にしないで、と啓は言うつもりだった。花火のように一瞬開いた感情で、次の瞬間には跡形もなく消えた──だから先輩は気にしないでと、想いを隠すつもりだった。困らなくて大丈夫、と。けれどそれよりも早く蒼生が遮る。隠そうとしたくせに、勘違いだと蒼生に思われるのは身を切られるかのように痛い。 「あ、あはは。僕なに当たり前のこと聞いてるんだろうね。うん。えっと、後輩にそんなに懐いてもらえて嬉し、」 「っ、そうじゃないって言ったら?」  縋るような蒼生の視線はなにを訴えているのだろう。男同士だからそれ以外有り得ない? あったら気持ち悪い? 蒼生の言葉を否定しないで、自分でしようとしたように隠してしまえばいいと頭では分かるのに。さみしくて仕方なかった。大切な人に、自分の想いから目を背けられるのが。 「啓くん、何言って……」 「ヤキモチだよ。先輩と後輩じゃなくて。俺が、蒼生先輩……湯川蒼生を一人占めしたかったって妬いた。だめ?」 「……っ」  くしゃりと前髪を握りこんで、蒼生がふらふらと立ち上がる。 「先輩?」 「だめ、だよ。啓くんとずっと仲良くしてたいから、だめ」 「蒼生せんぱ、」 「ごめん、僕先に帰るね」  引き止めようと啓が立ち上がると、それを見なかったかの様に蒼生は走り去る。追ってくれるなとその背で言われているようで、啓の足は地面に縫い付けられたかのように動かなかった。  つい数分前まで、あんなに嬉しくて幸せな気持ちでいっぱいだったのに。どこで間違えた? 想いを隠しきれなかったから? 好きになってしまったから? 今日、約束しなきゃよかったのだろうか。いや、もっと前……出逢ったあの日、おすすめの本を教えてと声をかけなければよかった? そうすれば、蒼生にあんな辛そうな顔をさせなくてすんだのだろうか。 「あんな辛そうな顔……初めてみた」  沈む太陽は啓を待ってはくれない。一秒一秒、誰にも平等に時間は過ぎてゆく。  好きだって気づいたのに。気づいたから。俺は蒼生先輩を傷つけた。

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