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第25話
「湯川先輩、これ、もらってくれませんか?」
「え、っと。僕に?」
「はい、あの! お誕生日おめでとうございます!」
そう言って小さな袋を半ば押し付けるように渡し、瞬く間に走って行った女生徒を蒼生はぼんやり眺める。ネクタイの色が啓と同じだったから一年生だな。とり間違いようのない好意を前にしても自分の頭の中は啓ばかりなのだと、こんな時にも思い知る。
今日は先ほどの彼女が言う通り蒼生の誕生日だけれど、今年は一ミリだって嬉しくもない。啓と話せないまま迎えた冬なのだから、どんな日であろうとそれは当然のことだった。
「はぁ。帰ろう」
先ほど図書室に顔を出した時も委員のみんながおめでとうと祝ってくれて、今日くらい早く帰りなよ、なんて気遣われてしまった。特に行くところもないのだけれど、その気持ちは有り難く頂戴するべきだろうとすぐに図書室を出てきた。
十二月にもなれば風は冷たく、マフラーを巻いて口の下まですっぽり覆う。昇降口に向かっていると後方からパタパタと廊下を急ぐ足音が聞こえてきた。
「あ、いた! 先輩! 湯川せんぱーい!」
「あ、大野くん」
「待って! まだ帰らないで!」
「へ」
「うーん、どうしよう! えっと、こっち! こっち行きましょ!」
「ちょ、ちょっと大野くん、どうし……わぁ!」
息を切らしながら走ってきたのは康太で、そのままの勢いで蒼生の手を引いて走り出す。
「どこにしよう!? 教室、はだめだ! 屋上? 屋上って入れんのかな」
康太が呟く声を拾っても、何のために走っているのか蒼生はちっとも分からない。康太以上に息を弾ませながらもついていくと、屋上に続く階段に到着した。
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