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第26話

「あーやっぱ屋上には出られないんだな。まあ寒いしいっか」 「はぁっ、ちょ、大野、くん、なに……はぁっ」 「先輩、走らせてごめんっす! 話したいことがあって。大丈夫っすか?」 「ん、大丈夫だけど、ちょっと、待って……」  階段に座り息を整えると、康太も隣に腰を下ろした。走って熱くなったのでマフラーをずらしパタパタと手であおぐ。心配そうな顔をしている康太を安心させたくて、もう一度大丈夫だよ、と伝えた。 「えっと、話ってなに?」 「あー、えっと。俺の昔話を聞いてほしいんすけど」 「昔話?」 「そうっす! 俺のダチの……ユウの話っす。湯川先輩に聞いてほしい」 「っ、啓くんの……うん、分かった」 「あざっす!」  啓の名前をぽつりと呟いた蒼生に、康太はやさしい眼差しを向けた。 「あのね先輩、俺、ユウとは小学校からの付き合いなんすけど。あいつ昔からずっと、滅多に自分の意見とか言うタイプじゃなかったんすよ」 「そう、なんだ。ちょっと意外かも」 「はは、それなんすけど」 「…………?」  康太が話す啓の姿は、蒼生が知るものとはどこか違うものだった。最初に話しかけてきたのも、一緒に帰ろうといつも誘ってくれていたのも啓からだったから。

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