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第28話
「だけど、ユウは生まれ変わったっす! 高校一年生の、初夏の出来事っすね。それはズバリ! 湯川先輩に出逢ってからっすよ」
「っ、僕?」
「はい」
ニヤリ、と笑んだ顔を膝についた頬杖で支え康太は続ける。
「先輩に会いたい時は、放課後の遊びの誘いを自分の言葉で断るようになりました。あのユウが自分の目的のために図書室に行って……あ、一緒に帰る時はもしかしてユウから誘ってたっすか?」
「う、うん。委員終わったら帰りませんか? って聞いてくれてたよ」
「ん~やっぱり変わったなぁ。康太母ちゃんはそれが嬉しくて」
「ふふ、大野くんは母ちゃんなんだ」
「ずっと一緒にいたからそんな気分っすよ。まあずい分タッパのある息子っすけど」
でもね、先輩──またアイツは元通りです。寂しそうに下がった康太の眉に蒼生の胸もしくりと痛む。
「毎日腑抜けっすよ、机にだらーんてうなだれて。何をするのも自分では決めない、俺が誘えば遊びに行くし、誰にも誘われなきゃ帰る。残りの飴玉をホッとした顔で口に入れてたアイツに戻っちゃいました。だけど。だけどだけど、なんです。先輩」
「え?」
「俺、ほんとは全然本は読まないんすよ。字が並んでるの見てたらどうしても眠くなるタイプで。それなのにあんなに図書室に通ってたの、なんでだと思います?」
「え、っと……」
いたずらっ子な笑みで康太が蒼生を見据える。ミステリー小説の文面に生き生きと浮かぶ、嬉々として謎を解いてみせる主人公のようだった。
「ユウに頼まれて行ってたんです。あれ借りてきて、これ借りてきて。そんで、先輩が元気にしてるか見てきて、って」
「っ!」
「ユウが自分の気持ちを言葉にする。それは、今もやっぱり、湯川先輩のことだからこそなんです」
「啓くん……ほんと? 僕、もう嫌われたんだとばっかり思ってた」
「はは! まさか! あいつはずっと、先輩のことばっかりですよ。元気かな、笑ってるかなって。口を開いたと思ったらそればっか」
「……っ」
鼻の奥がツンと痛んで、蒼生は緩んでいたマフラーを慌てて口元に寄せる。涙と一緒に啓への想いが零れ落ちそうだった。
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