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第29話
「ユウと先輩に何があったのかは分かんないっすけど。もし先輩も、会わない間もユウのこと考えてくれてたんなら。二人がもう一回、話せたらいいなぁって。お節介しにきちゃいました」
「うん、うん……そっか」
誤魔化すことが出来なくて、蒼生の発した声は潤んでしまった。それに康太は焦るけれど、やっと流せた涙、蒼生にとってはそんな意味を持った涙だった。
「大野くん、ありがとう。大野くんの話聞けてよかったよ」
「っ、ほんとっすか?」
「うん。啓くんと話せなくなって、ずっと寂しかった。だけど僕のせいだから仕方ない、当然の罰だ、って。でも……もう一度、啓くんと話したいって思ってもいいのかな」
「当たり前っすよ! 先輩がそう思ってくれてるんならいいに決まってる! だってアイツも、ユウも俺のせいだからって、だから会いに行けないんだって。今の先輩みたいな顔してたんすよ」
「へ……」
「ちょっと待っててくださいね! えーっと、スマホスマホ」
啓が自身を責めているなんて、そんなこと思い至りもしなかった蒼生は驚く。啓が言いたくないと渋った事を言わせて、それなのに。身勝手に自分の過去を引っ張り出し恐れて、まっすぐな啓の瞳を拒んだ。だから、悪いのは僕──その答えしか蒼生は持っていなかった。
混乱した頭で走り去った夕空の日を反芻していると、どこかに電話をかけたらしい康太の声が耳に届く。
「あ、ユウ? はいはい、今日もお待ちかねのあれですよ。“今日の湯川先輩”、by康太くん! え? そういうのはいいから早くしろって?」
「へ? 大野くん?」
ガバリと蒼生が顔を上げると、康太はウインクをして、しー、と人差し指を口に添えてみせる。それからぐっと落としたトーンで、康太は啓に嘯く。
「それがさ、先輩今ピンチなんだよね。もう帰ろうとしてたみたいなんだけど、いきなり男が寄って来て腕引っ張ってった。うん、尾行したした。今屋上の手前の階段のところにいるっぽい。ん? 助けろ? あー俺もそうしたいんだけどわりぃ、用事あんだわ。だから……お前が行け、ユウ。まだ学校にいんだろ? って、電話切りやがった。ん、よし! じゃあ先輩、俺帰るね」
「え、え、ちょっと待って。展開が早すぎて何がなんだか……」
蒼生にまで聞こえるほど、ガタガタと椅子から立ち上がる様な大きな音が康太のスマートフォンから届いた。
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