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第37話

「ねぇ先輩、俺こんなの初めてなんだよ。誰かのところに自分で通うのも、あの時も今も……こんな風に強引にしちゃうのも。本当は優しくしたいからダメなんだけど……。ね、だから俺は先輩の事裏切ったりしない。一人にしないよ」 「うん、啓くんは優しいって知ってるよ」 「へへ、ありがと。……じゃあさ、言ってもいい? あの時の、もにょもにょの正体。ひとり占めしたいって思った理由」 「っ、啓くん?」  微笑んだ啓の瞳の奥に、決意の色が覗く。 「蒼生先輩、好きだよ」 「っ」 「大好き、いちばん。誰にもあげない」 「あ……っ、啓くん」 「どうしたの? くるしい?」 「うん……くるしい。うれしくて、胸がいっぱいで、くるしい」 「っ、先輩」  蒼生は握ってくれている啓の手に、自分のもう片方の手を縋るように重ねる。そうしないといっぱいになった胸がはじけて、どこかへ飛んで行ってしまいそうだと本気で思ったからだ。  ここにいたい、啓の隣に。だからすべてを振り切って、自分の力で啓に手をのばすのだ。

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