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第38話

「啓くん、僕、男だよ?」 「うん、知ってる。綺麗で、優しくて、格好いい男の人だよ」 「っ! 啓、く……」 「そうやって不安になった時、ちゃんと教えてくれるのも好き。もう苦しまないでほしいから嬉しい。もっと言ってもいいよ。ぜんぶ大好きだから。……って、はは。こんなにぐいぐい来られてもイヤ、かな?」  ついた傷を忘れられず、何度も確認されるのなんて面倒だろうと蒼生は思うのに。啓はそれすら嬉しいと笑う。すらりとして、それでいて男らしい指は、世界でいちばん優しく蒼生の傷をなぞって癒してゆく。痛いのはもう、啓を傷つけたと後悔した部分だけだ。 「啓くん……そんな事ないよ。嬉しい、すごく」 「っ、ほんと?」 「うん」 「よかっ、たぁ……」  啓はいつの間にか入っていたのだろう体の力を抜きながら、そう言って首をうなだれた。康太に聞いた幼い頃の啓の姿が、会った事などないのに蒼生には重なって見えるかのようだ。  “今まで”を超えて、差し伸べられる手がこんなにもあたたかい。それは彼にとって容易いことではないはずなのに、それでも温もりを失わず、ただひたすらに蒼生を想うからなのだと思い至れば、あふれ始めたばかりの感情は止まることを知らず膨れ上がるばかりだ。 「啓くん、本当にありがと」 「ん? なにが?」  何も特別な事などしていない。そう言いたげな顔で啓は今度はこてんと首を傾げる。そんなところまで好きなのだと、蒼生の胸はきゅうっと音を立てる。こんなにも特別に届くのに、康太の言葉を借りるなら、“蒼生のことだから”出来るのだと言われているかのようだ。

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