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3-8
ベルトを外しズボンを下ろしたセンパイが、俺の顔の傍に手を着く。ギシリと軋んだスプリングに思わず目を逸らす。逸らした先にセンパイの落とした影があり、セックスしているのだと改めて思い知る。
体の奥を拓くようにセンパイの中心が入ってくる。腹の底が苦しくて、息が荒くなる。みっちりと詰まったそれはやけに体内に密着していて。もう抜けないのではとさえ思えるほどの一体感に自分の根底が書き換えられそうな気がした。ぎらり、見上げた先にある目は欲情の色を湛えていて。促すように手を重ねると、センパイはハッと息を呑んだ。
「煽んな」
「言いがかり……っですね」
上手く声が出せない自分に焦る。これじゃあ声が全てを語ってるじゃないか。熱に浮かされていた先程よりも、センパイが動かない分、少し冷静さの残る今の方が羞恥心を無視しきれない。軽く唸り、目元を腕で隠す俺にセンパイが囁く。
「圭一、」
「呼ばないでください……」
「断る」
「底意地の悪い……」
俺の弱り切った声に、センパイは楽しそうに肩を揺らす。
「顔見せて」
「ヤです」
「……圭一。けーいち?」
「呼ぶなって……」
腕をずらしセンパイを睨んで……後悔する。合わせた瞳の甘さに、言葉が出なくなった。
「……そんな、好きみたいな目で見ないでください」
「みたいな、じゃなくて好きなんだが」
「……、」
嘘だろと見返すも、センパイの目に揺るぎはない。それどころか一層甘い目で見てきたセンパイに、逃げるように視線を逸らした。
「俺はさ、ゲイなんだ。救護室で恋バナを求められた時はまだ言う勇気がなくて少し焦った。お前のことは、手のかかる後輩だと思ってた。最初はそれだけだったんだ」
熱を逃がすようにセンパイは息を吐く。俺の重ねた手に指を差し入れたセンパイは、完成した恋人繋ぎに満足そうに口角を緩める。
「手のかかる後輩から……その優しさや、頼りなさを知って。支えたいって思った。勿論、そんなお綺麗な気持ちだけじゃなかったから、お前が不用意にキスしたりなんてのも結構危なかったんだぞ」
大体、意識でもしてなきゃ後輩としてなんてわざわざ付けるか。
しれっと言い放ったセンパイにぴしりと固まる。コイツ、何も分かってないフリして弄んでたのか……!
愕然とした表情の俺に、センパイはころりと笑う。
「どうせ適当に躱すだろうと思って内心ぶちまけたらいい反応するもんだから」
こんにゃろう……!
ムッとして体に力を込めると、俺の体内のそれが存在感を増す。急な締め付けにセンパイが小さく吐息を漏らした。
「っ、力抜いて」
「はぅ、はっ、は……」
「上手」
子供のような扱いを不満に思うも、体は高ぶりはじめる。
「甘やかされるの好きだよな」
「んぅ」
「目がとろんとしてる」
頭を撫でる手に頬をすり寄せる。きもちい、と呟くとセンパイの目つきが鋭くなった。
「ほんと、煽るの上手いな」
俺が煽られやすいだけか。
独り言のように呟き、センパイはずいと腰を進める。ひぁ、と漏れ出た喘ぎ声は自分のものとは思えないほどに高い。快楽を逃がそうと体をよじると、太腿を掴んだセンパイが見える。股を開いているのだと自覚できる景色に堪らず目を瞑った。
肉を打つ音と振動が体に伝わる。目を瞑ったところで否応なしに伝わる感覚に、体に力が入る。センパイの熱を締め付けてしまい、身を震わせた。上からぐぅと唸り声が聞こえる。センパイは優しく俺の髪を撫で、「キラキラしてないな」と囁く。
いつもの俺の髪を求められているようで恥ずかしくなった。目を開くと、熱の滲んだ瞳と目が合う。ふわり、和らぐ瞳は俺にまっすぐ好意を伝えた。
「センパイ、きもちい?」
「……、気持ちいい」
「――よかった」
俺から頼んだから、気持ちいいのが俺だけじゃなくて良かった。安心から頬が綻ぶ。腹の中のセンパイが質量を増した。目を瞠り、背を逸らす俺に、センパイがごめんと謝る。
「ちょっと、余裕ない」
「~~~~~~~ッッ?!」
奥底まで叩きつけられた怒濤に頭が痺れる。パンパンという音と、じゅちゅ、という粘着質な音が絡み合う。絶え間なく零れる喘ぎ声に、本当に自分の声かと疑った。熱が体内を走り、擦れ、作り変えていく。熱がびくりと震え、腰の動きが止まる。はぁという荒い息遣いは、もはやどちらのものともつかなかった。頭上のセンパイが色っぽく微笑む。それを見届けた俺は、ここ最近の寝不足からか、突如訪れた猛烈な眠気にあっさり意識を手放した。
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