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(まだ、無理か)
「ちっ、違うぞ!?け…決して避けてる訳ではなくて……」
「分かってるよ」
慌てる聖を宥め、笑顔を作る。
聖は心配性だ。オレが熱を出したら「自分も学校を休む」とまで言うんだから。
それにしても今日の聖はおかしい。普段なら胸を張って困り笑いを浮かべながらもはきはき喋るのに。こちらが心配しているとそれに気付いたのか聖はなにか独り言を口にしていた。しかも小声で。
「さとーー」
はらりと黒マントが落ちていく。腕を通り、腹を通り、足を通って床へと。
オレの目の前に現れたのは確かに聖だ。人より体格に優れていて、身長は約一八〇センチの高校二年の男子。肌はまだ夏の味を残していて褐色であった。
上半身は女子が着るようなスポーティーな黒ブラを着用。大きく♡の形が大胆にも真ん中で切り取られている。首には黒レースのチョーカー。そこから黒い紐でクロスした紐はブラの中にまで侵入していた。腹筋がついたおへそは丸出しで光沢のある黒スカートは少し下を向いたら完全に見える位置に。膝上五センチだろう。腰から同じ色の羽が両方から生えていた。網目状の黒サイハイはベルトで留めてあった。
「……聖?」
状況が理解出来ない。思考停止とはまさにこういうことをいうんだろう。
顔を伏せてる聖から目を離せず、かつ、心臓が大きく音をたてた。
「こ……っ……」
「こ?」
絞り出すような声。丈の短い裾をぎゅっと掴んでいた。
「こっ、滑稽……だろ?気持ち…、悪いよな?でかい図体の男がこんなことしたら引く……よな。すまない、はしゃぎ過ぎた……」
震えていたのは声だけでない。床に落ちたマントを拾おうとした手も、人差し指と親指で何度も掴んでいるのにかすってばかりだ。体を支える折れた足も微かに震えている。
「聖」
彼の大きな両手に自分の手を重ね、優しく握る。冷たい氷と言われるオレなんかよりもずっと、熱い。溶けてしまいそうだ。潤んだ目と視線が絡み、聖に微笑みを送った。
「何を勘違いしているだろうけど、そんなことないよ。聖、すっごく可愛い」
ドクンドクン。口にすると心臓がさらに機能して煩い。不死身と謳われる吸血鬼だって心臓くらいはある。
抱き締めた大きな体を腕いっぱいに包み込めるのはきっと彼よりも大きいオレだけ。結びになる手はスポブラの上に置いた。
「聖、可愛いよ」
「みっ、耳ちか…っ…ぁ……!!」
「それから、エロい」
「あっ…うっ……!!」
カクカク足を震えた聖はペタンと床に座った。
「きょうちゃん、俺、ダメ……」
「聖、可愛い」
「ふぅぅっっ……♡♡!!」
耳にキスするように囁けば大きなカラダが少し跳ね、体重がオレにかかってきた。自分の平らな胸にふわふわもちもちの聖のおっぱいを押し付けられる。
(あ……すごっ……)
胸から胸へと伝わってくるのは激しい心音。ドッドッドッと聞こえてくる。
(聖、オレにドキドキしてるんだ)
愛おしい。まさにオレの気持ちはそれだった。
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