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7粒目
スペアキーは下駄箱の上。
いらなくなった雑誌はまとめて上がり框へ。
最低限の荷物をバッグに詰め込んだ棗は、振り返って家中を見渡した。
和巳と暮らした一年は夢みたいで、夢でしかない一年だった。
家主が帰宅するのを待ち構えていた棗は、和巳が玄関のドアを開けた直後、「俺この家出てくわ」と告げた。
驚いた和巳が反射的に棗の腕を掴む。
「待て待て、こんな時間にどこ行くつもりだ。家出か」
「……家出じゃねえ。子ども扱いすんなって」
最後まで保護者面を貫く男に、苛立ちを通り越して苦笑が漏れる。
「昼間病院行ってきた」
「あ、ああ、どこも悪くなかったか」
「健康そのものだってよ。マジで発情期が落ち着いたパターンらしい。ずっとこれならアンタがいなくても平気だし、番は今日で解消な」
「え……」
バッグを肩に引っ掛け、世話んなったなとスニーカーに足を突っ込んだ棗を、和巳が後ろから引っ張って止めた。
「今の本気か」
「当たり前だろ。んなめんどくせえ冗談言うかよ。あんただってこんなデケェ子どもがいたんじゃどう考えても邪魔だろが」
だからさっさとまりかのところに行っちまえ。
うまくいけば家事もできない生意気な子どもの代わりに、料理上手な嫁と可愛い子どもが手に入るかもしれない。
「……誰が邪魔だって? 世界一可愛い子に向かってどの口が言う」
「ばっ……こんな時にふざけんな、くそっ」
まともに取り合ってもらえずついカッとなる。
どこまでいっても棗はその程度の存在でしかない。
「そういうのもうウンザリなんだよ」
苛立ちをぶつけるように吐き捨て、強引に男の腕を振り切った。
早足に突き進む棗の後ろから、慌てて和巳が追いかけてくる。
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