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8粒目
「ふざけたつもりはない」
「ついてくんな」
「……もしかして俺は重かったか」
「ハァ?」
「重い」の意味がわからず、返事もしないまま足だけを動かしていると、和巳は同じ速度で隣を歩きながら話を続けた。
「こんなオッサンの番になって、本当は嫌な思いをしてたんじゃないのか。だから出て行くなんて言い出したんだろ」
「……んだよそれ。その言葉そっくりそのまま返してやる」
フンっと鼻を鳴らすと「冗談で言ったんじゃない」と怒られた。
こっちだって冗談なんかじゃねえ。
胸の中で反抗した瞬間、覚えのある痛みが頭を締めつけた。
頭痛が波になって押し寄せる。こんな時に勘弁してくれ。
「それなら好きなヤツができたのか。だったら――」
「だったらなんだよ」
見当違いなことを言われ、一瞬で頭に血が上った。目眩がしてイライラする。
だったら、の後には一体どんな言葉が続いたのだろう。
仕方ない。お別れだ。せいせいする。
想像した直後、頭部が鈍く軋んだ。
「好きなヤツいんのアンタの方だろ! 毎晩バカみたいにまりかまりかって、もう聞き飽きた! 早く、そいつんとこ、……イッ」
言い切るより先、痛みで視界が歪む。
まずいと思った時には地面に倒れ込んでいた。
驚いて名前を繰り返す和巳の声と、心配げな表情が、意識の狭間に滑り込んで焼きついた。
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