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9粒目
棗が目を覚ますと自宅のベッドに横たわっていた。
飲みかけの錠剤がサイドテーブルに並べられ、不機嫌な表情の和巳に痛いほどギュッと抱き潰される。
「このバカ! どうしてこんなものまで飲んで発情期が来ないなんて嘘つくんだ」
「……ちょ、痛え……」
「痛かったよな。こんな強い抑制剤を長期間飲んだら、副作用は相当きつかったはずだって病院の先生が言ってたぞ」
そっちの痛みではないのだが、意識を失っている間に病院で診察され、秘密にしていたことがバレてしまったらしい。計画は水の泡だ。
「……俺は誰かの代わりにされるのなんか趣味じゃねえんだよ」
「そんなことするわけないだろ」
力強く反論され、少しばかり驚く。肩口に顔を埋めた和巳が包容を深めた。
「悪かった。毎晩寝言で呼んでたなんて知らなかったんだ。誓って言うがやましいことはなにもない。……まりかのこと話してもいいか?」
真剣な声音で覚悟を決めたように問われ、無言で頷く。
一拍置いて和巳が昔話を始めた。
「まりかとは学生の頃付き合ってた。二十年近く前の話だ。
彼女には教職に就くという夢があった。でもΩであることを理由に、教員の採用試験を受けさせてもらえなかった。
なにかいい方法はないかと俺も必死になって探したが、Ωとして生きることに限界を感じたらしい。
まりかは積もり積もった鬱憤を晴らすかのように、自ら命を絶った。
……傍にいながらなにもできなかった自分の無力さが、今でも許せない」
「……あんたが仕事熱心なのってそのせいかよ」
「ああ、きっかけは彼女だ」
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