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抱いて 濡れて 溺れて 6
悠貴さんの車なら20分もかからずに到着するので、ボクはこっそり二階に上がって、お財布や鍵など必要なものを着物とお揃いの巾着袋に入れた。
そんなことをしていたら、案の定、外に車が止まる気配がした。
窓に駆け寄って家の前の道路を見ると、悠貴さんの黒いスポーツカーが目に入った。
ドアが開いて、黒いロングコートを着た悠貴さんが出てきた。
ダブルのボタンで、腰にベルトをして、襟を少し立てている。
少し癖のある黒髪を矯正して真っ直ぐにした悠貴さんは、今はその髪を伸ばしていた。
肩にかかるくらいにまで伸びていて、今日はその漆黒の髪を後ろで一つに結んでいる。
対照的にボクは美影ちゃんとお揃いはやめて、少し髪を茶色くして、緩いパーマをかけた。
前髪も短くして分け目をつけて、顔を隠すのをやめた。
最初美影ちゃんは嫌がったけど、美容院から帰ってきたボクをみて、可愛いといって絶賛してくれた。
悠貴さんも褒めてくれたけど、ボクが他の男に目をつけられないかと、少し心配していた。
ボクは悠貴さんの姿を確認すると、首に白いウサギの毛で出来たマフラーを巻き付けると、巾着を掴んで部屋を出た。
階段を下りきった所で、玄関のチャイムが鳴った。
お揃いで買ってくれた、白地に赤い牡丹が描かれた草履を出して、足袋を履いている足を苦労して入れる。
ドアを開けようとした瞬間に、後ろから美影ちゃんの悲鳴が聞こえた。
「薫っ!何処行くの?!」
ボクは急いでドアを開けて、冬の肌を刺すような冷気の中を、小走りで出る。
「薫ぅ!!ちょっと・・・お母さん離して!」
「薫は初詣行くんだって。いいから邪魔しないの」
後ろからボクを追いかけようとする美影ちゃんと、それを止めるお母さんの声が聞こえる。
草履は走りにくいから、転ばないように気を使いながら、ちょこちょこ走って、ボクは門のところにいる悠貴さんの元へたどり着いた。
悠貴さんは、ボクを何故かすごく驚いたような顔で見ている。
ボクは鉄製の小さな門を開けると、悠貴さんに抱きつきたい衝動を抑えながら、悠貴さんの前に立った。
久しぶりにゆっくり悠貴さんと会える。
切れ長の目も、通った鼻筋も、薄い口唇も、ボクより頭一つ分高い背も、全部が久しぶりで、こうして会えたことが嬉しくて。
泣きそうになりながら、ボクは涙を堪えて頭を下げた。
「あ・・・明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」
「ああ・・・宜しくお願いします。・・・薫・・・」
「はい!」
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