12 / 23

抱いて 濡れて 溺れて 12

本当に・・・何ていうか・・・キザだなって思う。 でも、それが様(さま)になっていて、さり気なくて、嫌味に感じないし、無理してる感じもしない。 あくまでも、自然にしてくれる。 ボクは、ものすごく照れながら手を握って、車から足を下ろして、ゆっくりと外へ出た。 悠貴さんは、車の鍵をかけると、ボクの手を握ったまま、エレベーターへと移動する。 何だか今日は、よく手を繋ぐ日だな。 夢の中にいるような、ふわふわした感覚に包まれる。 そのまま悠貴さんに先導されて、ボクは草履で歩く。 やっぱり整備されたコンクリートの上は歩きやすい。 神社みたいに、砂利が敷いてあると歩きにくくて、本当は何度も転びそうになっていた。 悠貴さんが手を繋いでいてくれたから、転ばずに済んだけど。 「どうぞ」 「お邪魔・・します・・」 部屋の鍵を開けて、悠貴さんがボクを先に部屋へ誘う。 悠貴さんはいつもこうしてボクを先にしてくれる。 草履を脱いで廊下に上がり、廊下を抜けてリビングへ行った。 忙しいのにそんな時間が何処にあるんだろうと思うくらい、悠貴さんは部屋をきちんと掃除している。 整理整頓がされていて、男性の一人暮らしとは思えないくらい。 ボクなんか実家に住んでるのに、部屋は散乱しがちで、いつも母か姉が掃除してくれている。 「コーヒー淹れるからソファ座ってて」 「あ・・・はい」 リビングと繋がっているキッチンへ悠貴さんが行く。コートを脱いで椅子にかけると、コーヒーを淹れる準備を始めた。 悠貴さんはかなりのコーヒー好きなので、きちんとサーバーで淹れるのだ。 本当はボクが淹れた方がいいんだろうけど、なんせインスタントコーヒーしか淹れたことがないので、サーバーの使い方なんて知らない。 ボクも着物用の防寒具を脱いで、腕にかけ、本革のソファに座ってキッチンに立つ悠貴さんを見つめる。 久しぶりにゆっくり会えて嬉しくて、今日はずっと悠貴さんを見つめてしまう。 明日から、またなかなか会えなくなっちゃうから、いいよね・・・。 ボクも悠貴さんも、明日から通常勤務に戻るから、病院で会えてもすれ違う程度になる。 また、淋しい時間を過ごさなくちゃいけない。

ともだちにシェアしよう!