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抱いて 濡れて 溺れて 12
本当に・・・何ていうか・・・キザだなって思う。
でも、それが様(さま)になっていて、さり気なくて、嫌味に感じないし、無理してる感じもしない。
あくまでも、自然にしてくれる。
ボクは、ものすごく照れながら手を握って、車から足を下ろして、ゆっくりと外へ出た。
悠貴さんは、車の鍵をかけると、ボクの手を握ったまま、エレベーターへと移動する。
何だか今日は、よく手を繋ぐ日だな。
夢の中にいるような、ふわふわした感覚に包まれる。
そのまま悠貴さんに先導されて、ボクは草履で歩く。
やっぱり整備されたコンクリートの上は歩きやすい。
神社みたいに、砂利が敷いてあると歩きにくくて、本当は何度も転びそうになっていた。
悠貴さんが手を繋いでいてくれたから、転ばずに済んだけど。
「どうぞ」
「お邪魔・・します・・」
部屋の鍵を開けて、悠貴さんがボクを先に部屋へ誘う。
悠貴さんはいつもこうしてボクを先にしてくれる。
草履を脱いで廊下に上がり、廊下を抜けてリビングへ行った。
忙しいのにそんな時間が何処にあるんだろうと思うくらい、悠貴さんは部屋をきちんと掃除している。
整理整頓がされていて、男性の一人暮らしとは思えないくらい。
ボクなんか実家に住んでるのに、部屋は散乱しがちで、いつも母か姉が掃除してくれている。
「コーヒー淹れるからソファ座ってて」
「あ・・・はい」
リビングと繋がっているキッチンへ悠貴さんが行く。コートを脱いで椅子にかけると、コーヒーを淹れる準備を始めた。
悠貴さんはかなりのコーヒー好きなので、きちんとサーバーで淹れるのだ。
本当はボクが淹れた方がいいんだろうけど、なんせインスタントコーヒーしか淹れたことがないので、サーバーの使い方なんて知らない。
ボクも着物用の防寒具を脱いで、腕にかけ、本革のソファに座ってキッチンに立つ悠貴さんを見つめる。
久しぶりにゆっくり会えて嬉しくて、今日はずっと悠貴さんを見つめてしまう。
明日から、またなかなか会えなくなっちゃうから、いいよね・・・。
ボクも悠貴さんも、明日から通常勤務に戻るから、病院で会えてもすれ違う程度になる。
また、淋しい時間を過ごさなくちゃいけない。
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