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抱いて 濡れて 溺れて 21
「薫!ちょっとこれ見てよぉ。可愛いの見つけたんだ!」
美影ちゃんが満面の笑みで、ボクの方へパタパタと走ってくると、紙袋を全部床に置いて座り込み、一つの袋を開け始めた。
「いや・・・それより、美影ちゃん仕事は?」
また服を買ってきたと予想ができたので、ボクは話しを変えようと話しかけた。
こうやって買い物をしてきた日は、必ずファッションショーをやらされるので、できれば遠慮したい。
美影ちゃんは、ボクを見上げると、大きな目を開いて、きょとんとした表情で、
「え?お父さんが今日は夕方以降家にいろって言ってたから、リスケしてもらったんだよ」
「お父さんが?」
「そう。だから1日休みにして、魅華ちゃんと買い物してきた。・・・薫もそうでしょ?」
「ううん、ボクには何も・・・」
お父さんがそんなこと言ってたの?
ボクは何も聞いてないけど・・・。
頭を振るボクを美影ちゃんは、首を傾(かし)げて見上げている。
ボクは理由を聞かされていない美影ちゃんから目をそらして、姉の方へと向けた。
「魅華ちゃんも?」
リビングのソファに座って寛(くつろ)いでいる魅華ちゃんに声をかける。
コートを脱いで、ネイビーのタイトなワンピース姿になった魅華ちゃんはボクを振り向くと、
「そうよ。だから有給取ったのよ」
「?お父さんが何で・・・?」
「さあ」
知らないって感じで言ってるけど、魅華ちゃんが綺麗に紅を掃(は)いた口元だけで笑ってる。
あれは理由を知ってて、白を切っている時の表情だった。
「ただいま」
そんな時に現れたのがお父さんだった。
まだ5時にもなってないのに、お父さんが帰ってきた。
「お帰りなさい・・・会社は?」
「早退した」
ええ?!
早退までして帰って来たの?!
何があるの?!
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