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第3話「ケンカなら…」
正直、ケンカなら負けない自信があった。今まで一度も負けた事がなかったからだ。
さっきの秋人 との電話の内容を聞いてたなら、少しは俺のこと警戒するはずなのに、こいつは堂々と俺の目の前に立っている。
「ケンカの経験は?」
「ないね。今日が初めてかな」
首を傾げながら、余裕な笑みを見せられ腹が立つ。
「眼鏡 取らなくていいのかよ。壊れてもしらねぇぞ」
「ははっ、これないと何も見えないから。まぁ気にしないで」
(くそ。どこまで俺をなめてんだ? ほんとにムカつく)
「じゃ、行くぞ」
俺のそのひと言を合図に、そいつ目掛けて飛びかかる。まずはどれくらいできるか試してやる。
そう思い眼鏡野郎の右手に周り込み、拳を振るった。
けど――
「…っ⁉︎」
「へぇー。これが鷹中 元トップのグーパンチかあ〜」
いとも簡単に手の平で受け止められてしまう。様子見とはいえ、手加減はしていない。
(まぐれか?)
「ってめぇ…なめるのも大概にしろよ」
「別になめてないけど? まぁ、身長の割りにはいい重みだね」
眼鏡野郎の口角が上がり、ググッと掴まれた拳を握られる。そして勢いよく引き寄せられ、反対側の拳で腹を殴られた。
「ぐっ‼︎」
それは今まで感じた事のない重み。
「っくそが」
殴られた反動で体がよろめく。すぐに距離を取ったが、あまりの痛みに膝をついてしまった。
「ケホっ……てめえ、ケンカが初めてとか嘘だろ」
「嘘じゃないよ。ほんとに今、初めて人を殴ったよ」
眼鏡野郎は薄ら笑いを浮かべながら俺を殴った方の手首をブラブラと振り、どこか楽しそうにこちらへと歩み寄ってくる。
体格差があるとは言え、ケンカが初めてなこいつ相手にこの俺が膝を着くなんてあり得ない。
「じゃ、今度は俺からね」
そう言ってまた上っ面な作り笑いを見せたかと思ったら、今度は人を刺すような冷たい目が俺に向けられる。
次の瞬間、長い足が脇腹に入り、かわす間も、受け止める間もなく眼鏡野郎の足蹴りが左腹に直撃。
「ぐっ、がはっ」
吹っ飛ばされるほどの強烈な一撃。あまりの衝撃に足がガクガクと震えその場にうずくまってしまう。
「あーあ。両膝ついちゃった」
ゆっくりと顔を上げると、眼鏡野郎は俺を見下ろしながらそう呟く。
今まで、どんなに体格差がある奴が相手でも負けた事はなかった。どんなに強い相手でも、こうやって膝を折るのは俺じゃなかった。
(こんなのおかしい。あり得ねえ…)
「くそが…」
「これって俺の勝ちだよね?」
「はぁ⁉︎ まだ俺は倒れてねえだろうが‼︎」
頭の中に浮かんだ『負け』という文字。
苛立ちと、元トップとしてのプライドがそれを許さず、噛みつくように叫んだ。
「ぐぁっ」
「はい、終了〜。俺の勝ち」
顔を掴まれ、地面に顔を押しつけられる。
「っ…まだ…負けてねえっ‼︎」
(絶対、絶対にあり得ねえ。こんなやつにこの俺が負けるなんて)
「往生際悪いよ? それとも、気絶するまでがタイマンなの?」
必死に体勢を立て直そうとするが、眼鏡野郎の押さえつける力の強さにすべてを封じられる。
「っ…‼︎」
(くそ…くそっ…くそくそっ‼︎ こんな眼鏡野郎にこの俺がっ…)
「ってことで、今日から君、俺の犬ね?」
笑みを浮かべるこいつの目は、明らかに先程までとは違う。無様に地面に叩きつけられ、見下ろされ、まるでオモチャのように扱われる。
ギリリと歯を食いしばると、眼鏡野郎はまたニタリと笑った。
「じゃ、とりあえずフェラしてもらおうかな」
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