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第5話「きっかけは早朝に」
朝の7時半。いつもこの時間に登校し、生徒会室に来て机に積まれた山積みの資料に目を通す。
「成海 、おはよう」
俺ともうひとり、この時間に登校してくるのは、この学校を取り仕切る理事長の息子にして、この学校の現生徒会長。
「おはよ、樹 」
『月島 樹』
俺の幼馴染のこの男は、物腰が柔らかく、母親がアメリカ人という事もあってか、絵に描いたようなブロンドと色素の薄い碧眼 。
成績優秀で眉目秀麗。俺が唯一認める完璧なやつ。
「いつも朝早くからごめんね」
「謝るくらいなら俺を推薦なんかするなよな」
この学校には、生徒会が成績上位者の中から生徒会メンバーを選抜するという特殊な制度があった。
樹の場合は特に異例で、1年の頃から生徒会に所属。2年に上がるとすぐに当時の会長から、次期生徒会長に推薦された。
そして樹は俺を副会長に推薦した。
「今年の1年生は優秀な子ばかりだね」
「そうか? べつに普通だろ」
中間テストも終わり、現段階での成績上位者の詳細が記されたファイルを見ている時、ある生徒が目に止まる。
「…なぁ樹」
「何?」
「今年の1年の学年トップのこいつってさ」
俺はファイルの中のひとりを指さす。
「ああ、渋谷 君でしょ?」
「ツーブロに金髪って…見るからに柄悪そうなんだけど」
「出身中学はあの鷹中らしいよ。興味深いよね。倍率の高いこの学校によく合格できたものだよ」
「へぇ…あの鷹中ね。 ま、どうせ中学では陰キャだろ。いじめられて学校でも特にする事なくて、勉強ばっかしてたんじゃね? 高校デビューで見た目派手にした感ありありじゃん」
派手な頭に、女みたいな整った顔。
べつに最初はなんの興味もなかった。
その日の放課後は生徒会の活動はなく、いつもより早めに学校から帰れた。日が沈む前に学校を出るのは久しぶりだった。
正直言って生徒会の活動はめんどくさい。周りからの評価を得るためいい人間を演じては薄っぺらい笑顔を振りまく。
生徒会なんて雑用みたいなもんだ。
ほんと、樹の頼みじゃなきゃとっくに辞退してる。
「あ、あのっ」
下駄箱に到着した直後、ひとりの女子に声をかけられた。
(ネクタイが赤。…1年か)
「ん? どうしたの?」
また得意の作り笑い。笑いかけると目の前の女子生徒の頬がポっと染まる。
あぁ、告白か。と俺はすぐに気づいた。
「へ、返事はまだいいのでっ」
案の定告白だった。
女子生徒は慌てた様子でそう言い残し俺の前からパタパタと去っていく。
「はー…」
断る前に立ち去られ、思わずため息が溢れる。
(今月これで何人目だよ…くそめんど)
初対面で告白してくるやつなんてみんな決まって俺の顔目当て。
女なんて見た目が良かったら誰でもいいくせに。ほんと、女を相手にするとストレスが溜まる。
本来、人付き合いなんてめんどくさいから避けたいけど、“副会長である以上は最低限の振る舞いを…”って樹にきつく言われてからは猫を被るようになった。まあ、その方が楽な事が多かったから、今じゃ慣れたけど。
「なんかなー。面白い事ねぇかな」
退屈でめんどくさい学校生活にうんざりしながら校門を出ようとした時、例の1年を見かけた。
「おっ、陰キャラじゃん。名前は確か、えーっと、渋谷 …」
写真では分からなかったけど、ずいぶんと小柄。それにやっぱり女みたいな顔つきだった。
その1年は何やら楽しそうに電話をしていた。
べつに盗み聞きをするわけじゃなかったけど、その電話の内容に俺はひどく興味を惹かれた。
「鷹中 は俺ひとりで強くしたんじゃねえし…」
電話の内容は、どうやらこの1年が出身中学では不良のトップだったという事だった。
(…鷹中のトップ? って事はこいつ元不良?)
実は陰キャラという自分の立てた推測が外れ少し残念に思ったが、電話を続けるこの1年の後ろで、俺はあることを思いついた。
2年前、無名校だった鷹中の名を突如県内に知らしめた元トップ。
そいつが、どういうわけあってかこの高校に入学した。
そしてそいつは、現1年の成績トップ――
「……面白い」
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